2025年4月9日水曜日

愚か者、調べ物(読みまくり、書きまくる)

短刀の言葉、さくっと一刺し次々にひれ伏(ふ)す、矢継ぎ早、そそくさと現場から現場へ消え失(う)す、左様なら、言葉に規定された個々人を見知らぬ土地の何処(どこ)か、強引に引っ張って行って連れ回す文章が、なかなか句点(くてん)を打とうとせず、斯様(かよう)に読点(とうてん)ばかり引き継ぎ、引き続き、引っ掻き回し、匕首(あいくち)を急所に突き刺したまま捻(ひね)って痛み自覚さす、作用なら、馬鹿たれ、愚か者、調べ物より捻り出したる寸鉄(すんてつ)の言葉、読みまくり書きまくる言葉、世が世なら、寸言(すんげん)たる、寸言たれ、寸言たりし言葉、言葉、言葉集(つど)いし究極の文章、何故なら、お前の一生を一変さす文言ばかり集めた文章、文章、文章に一生を棒に振る、畜生……死ぬまで延々と良い子、悪い子になりてえのだ!

 絶版・廃刊になっている本や、おいそれと気軽に買って読めない分厚い全集(に所収されている解説や、誰かに宛てた推薦文や、雑誌に掲載された書評やエッセイなど)を読む為に、たびたび図書館を利用している。或いは、調べ物をしに。国会図書館にしかないものもあるから、そういう時はわざわざ永田町まで出向いたりするが、大体は近所(高円寺・野方)か隣町(中野)の図書館で事足りる、というか居心地が良いので、街の図書館の方をよく利用している。国会図書館の広大で殺伐とした無機的な感じは、よう好かん(手荷物ロッカーの処に居た警備員のおじいさんは良い人だったけど)。


閉架(へいか)にあった貸出禁止本なので、館内の閲覧席でじっくりと読ませて頂きました(快適な、中野図書館にて)

 三島が好きだった作家ないし著作に当たったり、個人的に目を付けた作家や著作に三島が既に目を付けていたり、そうこうする内、そういえば三島が所蔵していた書物とか一部・断片的には知っているけども、その全体像というか目録ってないのかしらんと思って調べたら、ちゃんとあった(さすが三島)。


自決からちょうど一年後に書かれた序文に、此の夫にして此の妻あり(ないし此の妻にして、か)としみじみ思う

 三島の奥さんが編集に携(たずさ)わった「定本 三島由紀夫書誌」なるものがそれで、冒頭から演劇や映画に出ている三島やら美輪明宏やらのお耽美な写真が満載で、その第五部にお目当ての“蔵書目録”があった。

 (こんなの朝飯前と)気軽にリストアップしようと思ったのが間違いで、延々続く転記作業にたまの休みの日中を全部使っちまった──三島の書斎・書庫にある約一万五千点の蔵書の中から、あくまで一部となる目録らしいのだが、気になる著作を百点ほどピックアップするのに、四時間半も掛かってしまった。世間からすりゃ誰とも会わず、一言も発せずただ一頁一頁ぱらぱら繰(く)ってはメモメモだなんて、作業が終わって外へと出たら夕方・日没だなんて、しかも朝から何も飲まず食わずだなんて、哀しくも淋しい休日やもしれぬが、己が生き甲斐はこういう処にこそある──

・土屋道雄 「人間 東条英機」 育誠社 S42.12.8

・東郷青児 「カルバドスの唇」 昭森社 S11.10.20

・トービス星図 「星占い入門」 隆文社 S37.5.15

・富田英三 「ゲイ」 東京書房 S33.6.10

 例えば、目録の“と”の箇所から自分がピックアップした著作のごく一部を挙げれば、どれも読んだ事ねえし、内容めちゃ気になるし……帰宅して早速、富田英三の「ゲイ」をググってみたらば、昭和のゲイボーイの白黒スナップ写真が出てきて、ますます読みたくなったワ(昭和のアングラ風俗史とかヤンキー大好きなので)。逆に、これ持っていたはずなのに目録に載っとらんぞってのもあって(手塚富雄訳の中央公論版「ツァラトゥストラ(ニーチェ)」とか、春日井建の処女歌集「未青年」とか)、まあそれは一部抜粋だから仕方ないかとも思ったが、これでまた手前の読みまくり書きまくるネタが充分過ぎる程に増えたぞってんで。


数年前に店仕舞いしてしまったが、高円寺民にはお馴染みの、都丸書店が献本していた

 そもそも読みまくり書きまくるとは何か?何をお前そんな躍起になっているのか?それは私個人が言葉・文章というものを規定する行為であるのだが、同時にまた言葉・文章より私個人が規定される変態の(変容の!変質者の!)この上ない快楽なのであった。メタモルフォセス──ぢゃなきゃ読みまくらないし書きまくらない。死んで生まれ変われるなら話は早いが、早い話が言葉・文章によって生まれ変わりたいのだ。死ぬまで延々と悪い子、良い子になりてえのだ!

 しかし将来何がしたいのだ、結局君どうなりたいんだ、愚か者、本や言葉に応える事はあっても、神や人間に答える訳がない。あなた方はただ、規定された私個人を見ていてくれ……金をくれ、休みをくれ、いや休みはいつでも休めんだ、休むに金が、要するに金が要るのだ──タイム・イズ・マネー──何だ結局お金か、厭な言葉だ、いや単なる言葉だ、金金金、世界を変えるプロセスは言葉だ、言葉言葉言葉、ほら言葉言葉言葉、言葉言葉言葉。


 重い、重過ぎるよ、切り離してくれよ、ねえ、もう良いから、剥がしてくれよ、言葉、また言葉、もう言葉でも良いからさ、短刀の様な、言葉!