2020年2月28日金曜日

2020・牡牛・座 スタンダード

ある夕べ、かれが「まだら牛」と呼ばれる町をかこむ山々のなかを独り歩いていると、ふとこの青年の姿を見かけた。青年は一本の木の根もとに腰をおろして幹によりかかり、疲れたまなざしで谷を見ていた。
-フリードリヒ・ニーチェ

 絶望の根は、希望が高くなるほど倒れぬよう根深くなる、と木の原理をいつか説かれたっけ。安心は全く、不安に根差しているらしい。山中を独りゆく彼の名は、ツァラトゥストラ。腰おろす疲れた青年は、フェリックスやハンスの様な青年は、かつての私。であるからして、今日も誰より不安でよろしい。

 まだら牛より、愛をこめて──



 “Nori MBBMのカバーMVシリーズ”その記念すべき20本目に、同じ五月生まれの民生さんによる隠れた名曲「ザ・スタンタード」をカバーいたしました。

 民生さんは勿論ユニコーンから、そりゃもう10代の高校生の時から、BOOWYかイエモンか何かの流れから、よく聴いておりました。T.REXの前身であるティラノザウルス・レックスのサードアルバム「ユニコーン」からバンド名を取ったという逸話も知っていたので、こりゃグラムロッカーとして当然聴かねばならぬと思っておりました。

 ユニコーンも民生さんのソロも、周りを気にせずマイペースに演っているあの感じ、我がグラムロックレーダーだけでなく“牡牛座レーダー”の方も反応しちゃって、「このアルバムがとびきり好き」というのは特にないのだが(曲単位ではある)、どれもそれぞれ適当な相貌(そうぼう)を呈しているのでテキトーに愛しておますワ。好きというより、安心やシンパシーを感じるですよ。


 バンドを演っている時のミーは牡牛座でも、牧場に居るまったりな牛でなし、コロシアムの闘牛気分で演ろうと心掛けているの──で最後、死して客より白いハンカチを振られる宿命──ですが、今回の民生さんのカバーに関しては、普段のまったりな牛の私で演りました。なんなら民生さんの牡牛座世界を超越して、更に濃密に執拗に追究して演るぞ、と。

 具体的に言いますと、CDレコードの原曲よりゆったりテンポで演りました(特にサビ)。その上にどっしりとメロディーに次ぐメロディーをシンセで構築し、ウォール・オブ・サウンドよろしく爆音ミルフィーユ状態に、とどめを刺す様にドラムビートへノイズエフェクトまで掛けて、“牡牛座型一点集中シューゲイズド・サイケデリア”の完成です。



 また、寝ながらボーカルを録ったりもしました。民生さんの好きなジョン・レノンもやっていたレコーディング方法で、ミーは自宅の布団に入ってだらしなく歌ってやったよ。

 更に細かな処まで言及すれば、Aメロの“もうそれはそれとして”という一節、民生さんは「もぅそれはそれとぉ/してぇ」と歌うところを、私は「も~うそれはぁ/それとぉう/してぇ」と後ろノリのグルーヴで引っ張って、伸ばしに伸ばして歌いました。以上、民生さんよりまったりな牛でした。


 撮影に関しては、春爛漫な牡牛座世界に相反する冷ややかなコンクリート打ちっぱなしの家を借り、敢えてそこで弾き語る自己を際立たせるという手法──対比表現ないし異化効果──を採用。皆の日常は私の非日常であり、私の日常が皆の非日常であるから。そしてまた、真白な皿こそ料理を際立たせるが如く、服装はシンプルに白シャツ&濃紺ジーンズ(で裸足)、これぞまさに人間・ザ・スタンダード。2020・牡牛・座 スタンダード。


君たち、今日の孤独者よ、離脱者よ、君たちは未来において一つの民となるべきだ。──そして、その民のなかから超人が。
-ツァラトゥストラ

 “超人”とか云って、思い上がんなよ。恥ずかしくねえかよ、凡人がよ。

 正しい反応、それで良い。そのまま受け入れられたんぢゃあ、超人もたまったもんぢゃない。泣いた私の流るるはずの、それぢゃあ涙も流れ出ない。だって一人も共感しないし、独りは独りにもされないし。いつか独りぢゃなくなるであろう、今は独りを独り占めするだけ。

 ここに綴ること、誰も分からないで良いよ。今日は──


 蛇足ながら、YouTubeに民生さんの2018年の武道館ライヴの映像が無断アップされていて、そこでも「ザ・スタンタード」を歌っていたのだけれど、これがとても良い。

 CDレコードよりテンポを落とした演奏(原曲より今回の手前のカバーに近い)、ギターは民生さんの歪ませていないクリーントーン一本だけという潔さ(これに関して手前は真逆で、この度は爆音シューゲイザー幻想を演った訳だが)、それはそれはかなり“牡牛座”していた。


 その動画のコメント欄も興味深く、“くるりっぽい。てかビートルズ感か”、“岸田さんこの曲大好きって、雑誌のインタビューで言ってました”、“この流れのままStrawberry Fields Forever歌ってほしい”等とあって、何か色々と腑に落ちた。

 “くるり”というバンドは個人的に、Unfinished Balladesのしんさんとあやさんにその良さを教えて貰ってから聴き始め、弾き語りライヴでも何度かカバーする程には好きになったし(そうだ岸田さんも牡牛座だ、と今書きながら思い出す、嗚呼)、“ビートルズ”は言うまでもなく物心つく前から家で聴かされていたし(で、この曲は民生さんと“ジェリーフィッシュ”のアンディによる共作である、両者ともビートルマニアである、ジェリーフィッシュは手前の大学時代の通学BGMの一つである、これもいずれカバーしないとである、ちなみにアンディは“PUFFY”の名付け親でもある)。

 民生さんの曲も民生さんの書いたPUFFYの曲も民生さんが陽水と演った曲も、おかんが家でよく流してたわ、“高校の時からユニコーンを聴き始めた”とか冒頭でほざいてたけど幼稚園の頃から聴きまくってたわ、思い出したけど普通にルーツだわ……ザ・スタンダードだわ



 という事で話は尽きませぬが、通算20本目となった“Nori MBBMのカバーMVシリーズ”、そのまとめ記事もまた明日くらい迄には執筆して載せておきます。


 それでは、さらば(あゝ昨日の口づけよ♪)


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