いざや、短歌(ドグマ)百連発!!
子供時分、正月に実家へと帰り、「ゲームしたぁい」と駄々こねっと、大正生まれの父方の祖母が「百人一首すっか?」と尋ねたもんだ。「そんなんゲームぢゃない」と厭(いと)ふと祖母は微笑(ゑま)ふたが、今ぢゃTVやPCゲームの方が退屈極まりなく、あのとき百人一首を祖母と皆でやっておれば、なあ誰か無性にやりたいだ、とさうかうするうち気持ち昂ぶってまひ、祖母の百歳の御祝ひに百首、自ら作ってしまったといふ訳で。
屹立す 俺とお前が 鰯雲 突き抜ける赫し 凱風快晴
祖母は半世紀以上、毎日日記を付けてゐる。今日だって、今だって。その日毎(ひごと)に、その日毎の反省を綴ってゐる。しかしこれは私にとって、過去であり未来であった。つまり、少なくとも現在ではなかった。古代や後代(こうだい)であって、限りなく近代ではなかった。
現在や近代の反省とやらは、全く取り留めない。限りなく背負ひ込み、大いなる何ものと接触しやうと失敗す。祖母は別に大いなる何ものと取り合ふ事もせず、一つ/\を淡々とこなすばかし。そして一世紀を活き/\と生きるのであって、決して一世紀を生きてやらうと意気込みはしない。今日だって、今だって。
現在や近代に大いなる何ものと弄(もてあそ)ばれ、私は祖母ほどに生きられぬであらう。あゝ祖母の日記の潔(いさぎよ)さ、おゝ五七五七七の心地好(よ)さ。今日お前が背負ふのは、今日のお前だけで良いに。どうしてまた百も背負ふて、これがどうして私の役目だから。私は百年も生きられぬであらう、たゞ百年を詠ふ事しかできぬであらう──
「ドグマ百人一首」
by Nori MBBM
【大正・二十五首】
一、自然主義 シチヰポツプの 息の根を 止めて遣りたし 荷風が世直し
二、男子の 自づと涜す手 速やけく 千夜一夜に 女子ら微笑ふ
三、彼の暮らし 大正近く なりにけり 風の時代ぢや えデモクラシヰ
四、訛りゐる 絶対矛盾的 自己同一 其方いかんでも 此方やつとるわ
五、褻に着給ふ 御衣を脱げや 穢れもの 尚更褻闕れ ヱロすなアガペヱ
六、生きながら 生きるを止む 粋な矛盾 生の不純ば 死の清純
七、タナトスす ヱロすら拝めん ハレヱシヲン 見詰める程に 盲ひる夫神
八、生きてゐりや 昔の男は 皆僧侶 髪無くせども 神失くすなま
九、親鸞の 三十年目が 出発点 復習す知恵 何処迄も比叡
十、連綿と 背徳の歴史 免罪符 着物脱がしも 御安心あれ
十一、一九八九の 四年四二年 四二六圓 数値吸ふ血の 隠れ身の蓑
十二、田面もゝう 見るもん居らんと 打つ遣れば 萬葉の子ら 記憶ば喪失
十三、隠れ身の 舞台袖より 舞台上 隠す気の無い 直隠しの身
十四、童達 大人の胸を 借りたいか ならば代はりに 真心寄越せ
十五、人生が 四半世紀で 始発点 予習す血縁 何時迄も遅延
十六、聴きゐりし 初恋の声は あえかなり 効率的野暮 科学的不粋
十七、女方 仏壇へ上ぐる 正信偈 始まりは何時か 終はりは今か
十八、声知らぬ 曾祖父母等の 血は流る ならば吾が声 彼等のものぞ
十九、聞こし召せ 見ゆ見ぬを見む 同列に この哥が現に 夢のやうなら
二十、一番に 大いなる数 九と憶ゆ 森林限界 曾祖父が頂き
二十一、モボモガよ (※1)かゝり云ふさけ どんならん 放任主義の もうナヲミズム
二十二、日本語よ 日本の訓へ 日本を學び 外語教員 蚊帳の外行き
二十三、供にせむ 仲好小好 伴にせん 喜怒哀楽が 怒哀は片方が
二十四、大正の 大を詰めたる 乙丑 三島と祖母が 喪ひし浪漫
二十五、鈴蘭に 毒され過ぎては 徒なりと 心置き給へ 月見草こそ
【昭和・二十五首】
二十六、カツ丼を 吐きて斃れし 荷風哉 真つ当に耽美 頽廃全うす
二十七、十二月 彼等見てゐる 譲り葉の 千代に八千代に 父母生まる
二十八、米利堅の 傷なき若さ 父母の春 祖父母の子らが 更に産む吾
二十九、(※2)おとろつしや 余情妖艶 (※3)むせこつちや 耽美頽廃 閾跨ぐな
三十、表彰状 母が少女の 時を知り 引き出し閉づる 不出来な息子
三十一、未だ存る 醜やかなる 童心を 逆に纒ひし レヱズンチヨコ
三十二、衆怨や 灰皿に燻る 紫烟也 両祖父が喫し 父喫しなかつた
三十三、地図が無い 迷ふた道の 路が無い 頼り無いなり お便り出す也
三十四、架空間 軽んず勿れ 史実体 貴様も孰れ メタフアの奴隷
三十五、プラトヲン 希臘の訓へ 希臘を學び 内省郷里 納屋の内向き
三十六、鳴り響く ルシフアの美名 響き合ふ 洞窟の陰 唯一人の翳
三十七、生涯の 友なぞ居らぬ 生涯の 藝それすらも 出来ぬといふに
三十八、取らんとす 寫眞フヰルム 砕け散る 酸化した日々 押し入れの隅
三十九、古里に 友一人無い 訳ぢやなし 故郷自体 無いやも知れぬ
四十、是が非でも 政治信条 顕にせ それ拒む也 向かうに汽車来る
四十一、父母の 丹精籠めた 創りごと 壊すのはまた 作りごと哉
四十二、鎌と鍬 スキゾとパラノ 鋤とビル 稀有にして婁ぐ 私人で以て
四十三、息通ふ 親と兄等と あの空気 家父長の椅子 家具調の瑕
四十四、雑沓に 斃れし草花 無名命 誰も気にせん 誰が誕生花
四十五、安宅町 園町寺町 三谷町 架空友人 想像人夫
四十六、即興詩 生き血巡らす 相関図 親兄弟縦 恋人横に
四十七、三和音 奇天烈宇宙 性倒錯 耽美頽廃 夜露死苦世界
四十八、何番線 一句拈れば 忘らりよか 分岐器がちやこん 然らば君よ
四十九、丑羊 丑射手胎児 大蛇山羊 申山羊対峙 魔女退治巳牛
五十、御祝ひぢや 賀留多遊びや おまへんぞ 昭和百年 祖母が百年
【平成・二十五首】
五十一、幼き日 寝付けぬ夜に 首觸る ギロチン落ちて 頭飛ぶ夢
五十二、坂の下 通つた床屋の 小父さんが 君は眼が良い 役者目千両と
五十三、初恋の 誹り謗り遣る 色事の 一触が女 即発が男
五十四、目潰しの 契り交はして 琴は啼く 師弟の番ひ 一線を越えて
五十五、姫横に 五人囃子と 一枚絵 主演の癖に 台詞憶えぬ
五十六、眼球を 愛でたるアンチ ヲヰヂプス 親兄弟 刺しも潰しもせず
五十七、戯れ合ひに 不良少年の 尻觸る 激怒が前触れ 戸惑ひ微笑み
五十八、僕には無い 丸太のやうな 太い首 叫べばロツク 僕には無い
五十九、首吊の 照々坊主を 首斬の 刑に処す也 野暮用に雨
六十、シヨツトガン 吹き飛ばされし 頭蓋骨 子宮の中へ 涅槃飛散す
六十一、女装子たる 世界を売つて 美男なり 穢されぬやう 火星に棲まふ
六十二、他所の街 こんもり膨らむ 路の上 他人の小母さん 余所の碧天
六十三、死ねシネマ 寝まつとれま 火星のキネマ 金星の吾が 琴線は触れ
六十四、魔の山や 谷間の百合に 嬰れられず 今度摘む薔薇 さくらフリヰヂヤ
六十五、罪業人 罰の代はりに 生享けて 破滅に向かふ 性請けども
六十六、神様は 恋ふる位で 丁度良し 死だけ捧げぬ 詩のみ捧げん
六十七、予想だに 出来ぬ手前が 性欲望 かういふ無学 さういふ無邪気
六十八、睡りやる 太陽目掛け 男根を 突き刺した時 夜は白んだ
六十九、寝バツクと 俯せる君に 逝つてまふ 流るゝ山なり 背なの谷にて
七十、父上よ 放蕩息子が 還ります きつと笑ふでせう 許す赦すまじと
七十一、親孝行 予定調和す 自己犠牲 打破す良い子の 親不孝也
七十二、人でなし ぢつとしとれま 藝術論 人を棄つれば 人より永く
七十三、実存よ 剥いて剥いでも 萵苣の球 信仰憧れ 恋ひ焦がるゝ
七十四、如何心地 時代と同級 世と長ず 三島と唱和 平静と吾
七十五、若かりし 視力を得れば 又候に 星の点描 認める心
【令和・二十五首】
七十六、殺生な 詞が吾の 頭蓋骨 ヲルタナチブたる 共振現象
七十七、両輪に 愛し憎しは 比例して 回り廻るな もう憎しだけ
七十八、他愛無い 身体の一部位 仕草等 僕狂つちまつた 愛撫さすから
七十九、精神や 身体見やうぞ 昇る陽の 若き惨さに 眼を灼かれやう
八十、解けるなら お好きになさつて 頑張つて 敗けてしまへば 私は去ぬ
八十一、この胸を 毒か薬か 揺す振られ 搖れぬより増しと 揺れる五七々
八十二、脚弱り 君の手を引く 事もあり しかして拒み 独り行かばと
八十三、無能故 せぬより出来ぬ 落涙は 啼きし誰が為 嗤ひ除いて
八十四、雪の日に 往かれる人は 多かれど 来る人なく 皆々何処
八十五、可か不可か 廻り遭ふにも この生命 棄つれば容易 今すぐ君と
八十六、好きだつた 浅き夢見し 腕枕 浅き夢見じ 今度は起きぬ
八十七、完璧に 永劫回帰を 果たすなら 地蔵さんたるもの 同衾しよか
八十八、地獄でも 自國でもない 異國にて 過ごした日々の やけに美し
八十九、アフロヂテ 貴女の産んだ 子が堕つる 忘るゝ愛と美 然らばビヰナス
九十、この國を 出た事も無い 現実を 二人の嘘は とびきり麗し
九十一、因縁よ 睨め付けられど 怨念よ 断ち切つたといふ よか倦んざりで
九十二、(※4)いぢくらし 不仕合はせなど 仕合はせて 次ぎ行け次ぎに 祖母は行くだらう
九十三、逆縁よ 思へば往生 近し哉 貴女泣き面 想つては哭きて
九十四、忘れ得ぬ 守り抜くぞと 愛し遣る 少なくとも瞳 か黒し間は
九十五、母上よ 祖先の神話の 母達よ 貴女の云ひ付け 忘れませぬぞ
九十六、純愛の 何割何分 何厘か 秤傾く 傾くな性
九十七、哀楽を 吸ひ取つた哥の 銘々よ 永遠に咲きゆけ 永久に枯れゆけ
九十八、風前に 燈した火こそ 熱く燃ゆ 圧縮されし五 七五七七
九十九、赤らかな コヲド進行 燦らかな 指定も無からう 暗黙知の血に
百、誕生日 命日の者 物同然 生まるゝ森羅 万象へ御還り
(※1)かゝり云ふさけ:余計な事を言うから、ちょっかいを出すから
どんならん:どうにもならない、手に負えない
(※2)おとろつしや:驚いた、びっくりした
(※3)むせこつちや:大変だ、心配だ
(※4)いぢくらし:鬱陶しい、煩わしい
曾祖父“九右ェ門”様に因み今回の百首とは別に祖母へ“九”首の詠を贈った
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己が股ぐら真っ赤な富士山短歌百連大噴火
言ふべきか、言ひたい事は、云はれるな──言ひ惜しむなや、言へ/云ひ尽くせ。
宵越しの、銭(ぜに)と詞(ことば)を、持たぬとは──経済原理、使ひ切り/回せ。
安心せい、使ひ切れぬぞ、より増して──新たな次元、新たし地平。
解明せい、先生方よ、この短歌(ドグマ)──現に地上で、使ひ得(う)る知で。
中島鉄蔵いや三浦屋八右衛門いゝや葛飾北斎いや/\画狂老人卍が赤富士大噴火
ドグマッ




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