男の抱く最も激しい感情が、はじめて心に吹きだすさまは、それ自体なんと不思議に満ちたものでしょう。私は伯母の客間で、何人かの美しい女性に会いました。だが、ちらっとさえ心をひかれた女性はそのなかに一人としていませんでした。むしろ異性全体に心を向ける年頃にありながら、一人の人にのみささげる情熱が生れくる源には、あるきまった時間とか、惑星の一定の組み合せとか、特殊な事情の符合とか、多くのなかにもこれという定まった女性があってのことでしょうか。
-フェリックス・ド・ヴァンドネス
てな訳で今回のカバーMVはスピッツの「ビー玉」。この曲は前の職場の先輩女性に「“スピッツ初期三部作”を聴きなさい」という事で、1~3枚目のアルバムを貸して頂いて知った楽曲です(今も芸の肥やしになっております、有難う御座居ます)。
一般的にスピッツは“好き”というより“嫌いになる要素が一つもないバンド”と言った方が正確な気がして、マサムネさんの描く手垢のついてない、そう、無垢な白昼夢の如き幻想世界が魅力的ですが、「空も飛べるはず(1994)」、「ロビンソン(95)」、「チェリー(96)」などで世間一般に認知される上記の様なスピッツ像を確立する以前、この初期三部作(91~92)は特にシュールで、ちょっと不気味で、何考えてるのかよく分からなくて、とぼけた可愛さがあって、否応なしに惹かれるものがあります。初期の方が変態的な歌詞多いのよね、“ピンクのまんまる”とか“盗んだスカート”とか(笑)
あとグラム野郎のNori MBBMから言わせて貰うと、志磨さんのクリスマスライヴ等でもお馴染みの“長谷川智樹先生”が初期スピッツのアレンジを数曲やっておられ、91年発売の3rdシングル「魔女旅に出る」の優雅なストリングスとか本当にメルヘンで堪らんのよ(ちょっとジブリ感なあい?)。何を隠そう長谷川先生は70年代のグラムロックが大好きでROLLYさんとも親友、同じグラム好きの田島貴男さん率いるオリジナル・ラヴの代表曲「接吻」のストリングス・アレンジもされていた偉大な方なので御座居ます(もしや“和製トニー・ヴィスコンティ”?)
それと初期スピッツは“ライド歌謡”なるものを標榜していた──故に隠れシューゲイザー──らしいけど、シューゲイザーのギターノイズの洪水って浮き世離れしていて、個人的にはSF要素のあるグラムロックの非日常観が頭を過(よ)ぎるというか、「ジギー・スターダスト」や「メタル・グルー」のド頭“Gメジャー”のあの感じ──あの響き、俺らにはとても美味しい音、色鮮やかな音──それがスピッツにもあるから恋をせずには居られません。ちゃんと音に華があるのです──そして花には花の色があるのです──Gメジャー、五月の緑、おのが色聴。
~~~~~~
今回の我が演奏に関しては、のんびりポヨポヨだけどずっしりバシバシいうリズムトラックに、己がアコギな弾き語り、仕上げに手前のノスタルジーを出来るだけ丁寧に込めたシンセサイザーたち──ヨーロッパの何処か下町にある細い路地の石畳の上で踊る様なリードオルガンに、大好きなローズピアノ(エレピの音って優しいのにちょっぴり寂しげで堪らんね)、それからメルヘンなフルートや木琴の音色とか──もいつものアナログな手弾きでオーバーダビング。
MVは多摩川の河川敷で撮ったのですが、録音・撮影のだいぶ前からメルヘンな演奏と映像の大まかなイメージがあったのです──朝とも昼とも夕ともつかない空、時刻や天候の判別がつかない白昼夢の様なね。実際、高校の友達と下校中の寄り道だったか休みの日だったかに、多摩川の河川敷で石ころの水切りとかして遊んで、空が暗くなってきたら“じゃあね”した思い出が無数にあって、あれは何の思惑も目的もない不思議で無意味で大切な時間だったな(彼は今も元気だろうか)。
また何で一般的に有名ではなく、かといってスピッツマニアの間でも大して話題にならない「ビー玉」という楽曲を選んだのか?という事だけど、一目、否、一耳惚れです──理由は分からん、何となくずっと好きな曲。
一応好きな理由を言語化してみるか……うーん、BPMが135とゆったりで丁度良いし、歌い出しの“やーんやんやんやん”とか謎のスキャットがおもろいし、しかもその部分は歌詞カードに記載ないし、グラムロッカーが演るメルヘンでキラキラしたフォーク調なナンバーにも聴こえるし、もう楽曲全体の雰囲気とかフォルムが好き!!(ビシッと上手く言えねえなあ)
不思議で、シュールな、捉えどころのないスピッツ、まさにマサムネさんの極み。特に目立たないけど、ずっと気になって仕様がない子。いつまでも忘れられず、時たま夢に出てきて、起きては独り寂しくなる──くそっ、可愛い、なんで俺のものにならんのだ君は──そんな感じの曲です。ありがとうございました(ペコリドグマッ)

0 件のコメント:
コメントを投稿