2024年12月31日火曜日

令和六年“榑木之地”完了

目一杯生きるというのは、まず年を重ねるという事だが、これは幾ら生き急いだ処で、人は一年で一歳しか老いる事が出来ないのであるから、おいおい老いてゆく時の流れに身を任すとして、もう一つ目一杯生きるのに、誰しも死のうとするのであるが、これは生きる究極の死、死ぬの対極の生、そうだ生きる究極の死──ゆらゆらタイトロープふらふら──綱渡りの快楽で、決して死んではならぬと云いつつ、自ら死ぬ死ぬ死んではならぬと、そうだ決して死んではならぬぞと、加齢の縦軸と並行して進捗(しんちょく)する、華麗なる横軸の並行作業、ないし平行とは結局これとそれとが延々交わらぬ為に、どんどん独りになるであろうが、この線において、その面において、目一杯生きたという事になるだろう。

 孤独や絶望の実(じつ)は、人類や歴史の常(つね)にちやほやされ、何にも寂しくない様に、何なら賑やか過ぎる位に、嘘っぱちの本当で、孤独かい絶望かい死にたくなんのかい?そんなら良かったぢゃない!こうして、どう転んだって生きてゆけるのだから、そう環境/状況を設定したのであるから、甘く切ないだけの物語ぢゃないか、誰よりも甘ったれて、彼よりも切なる願いをぶち撒けるだけの話ぢゃないか。

 ほらもっと、ちゃんと死にそうになる、来年!!みなさま良いお年を。



 今年も益々有難う、令和六年“榑木之地”完了。


2024年12月30日月曜日

ノート2024


高橋新吉を読んだ事は無い。「ダダイスト新吉の詩」を一頁(ページ)も繰(く)った事が無い。だのに、滅茶苦茶に影響されているのは知っている。

 父方・母方の祖父、祖母の生い立ちや馴れ初めをよく知らない。しかし、よく知っている父、母より自分に似ている気がする、それと同じ道理で。つまり、新吉に影響されて“ダダさん”となった中也の詩は(発表されたものも未発表のものも)よく読んだし、よく知っている。その二番煎じぢゃ仕様が無いから、逆張りをして新吉に似てしまうのだと思うし、祖父、祖母の隔世遺伝を強く意識してしまうのであろう。


「ダヾヰスト憲宏の詩」
by Nori MBBM

1. ヰントロダクシヨン

山羊と山羊、山羊の詩なら、父と母

“ヲギヤア”
──否
“ヲンギヤア”
──否
“(※1)てんぽにゝんがし”
──三たび、否

“ダヾヰスト憲宏の詩”


2. 洒落た人生

例へば五月一日に生まれし人あり
その人は何でもかでも結び付ける
語呂合はせの要領で
こい、来い、恋とか

日々その選択この衣食住を為すに
彼の男は何でもかでも結び付ける
語呂合はせの容量が
一杯/\になるまで

日々その洗濯この人間性を成すに
彼の女は何でもかでも引き剥がす
恋をしまくるのなら
失恋もまたその分ね

春と修羅、春と氷柱、春とツアラ──ダヾはシユウルに奉る

シドは五月、ダリは五月
ボクは五月、だから何?
R. マツト──1917──泉
ダヾは一切を否定するんだろ?
ダヾはダヾをも認めないのだ!

ただの相槌、ただの挨拶
ただの木馬、ダヾは何?
R. マツト──1917──泉
といふ事は、木馬は後ろだな?
木馬ならこの目で確かめたい!

ダヾ無意味、ただの意味
無意味といふ意味が意味
R. マツト──1917──泉
ダヾとは違ふのだよ、ダヾとは
ダヾの中で……ダヾを忘れた……

春とツアラ、ツアラトストラは、金の星──牡牛と天秤を司る


3. 祖父のコヲト

君の誕生日が私と一緒なら
特に言ふ事は無いのだがね
大体が違ふから説明の為に
こんな詩作を試行錯誤して
伝はらんもんを伝へようと

あつ、これ?手前のノヲト

草書体の己が生ひ立つ経歴
でも君にや読めないでしよ
行書体の筆が匂ひ発つ偏歴
これでもう読めるかしらん
楷書体の愛が奮ひ勃つ履歴

あつ、これ?祖父のコヲト


4. 道化・動機・放棄

自意識過剰や自惚れ屋
自信家にならなきやな
詩作は出来ませぬとな

“こんなに大きくなつたのねゑ”

散策をしながらですな
詩を認めるにネタ探し
これが見当たらぬとな

“もう今から将来が楽しみだわ”

最後の切り札手前だな
ほら俯瞰鳥瞰宜しくな
詩作が手前を創り出す

“また一歩、死に近付いたのよ”


5. 倦怠を握られた男

恋喰らつた時分
眠れないんでさあ
肌荒れて血色悪いでさあ
握られて抜かれまくつてさあ
KAMI抜けて老けて見られてさあ
もう恋人の居る訳も無いんでさあ

しかし晴れやかでせう
身も心も軽やかでせう
でしよう皆かうでせう
ノスタルヂツクでせう
勝手に懐かしむでせう
昔は平和だつたでせう

いや、それが昔の方がね……

もう恋人の居る訳も無いんでさあ
髪も抜けて老けて見られてさあ
握つては抜きまくつてさあ
肌荒れて血色悪いでさあ
眠れないんでさあ
恋喰らわぬ自分

自分以外に握られた倦怠はもう
手に負へぬ!


6. 割愛の儀

永続する恋は無い!
──悲観論ですか?
いや、楽観したとて愛の奴が!
──邪魔するんですか?

……話をまとめませう
つまりかうです
一、恋は永続しない
一、君は恋をしてゐる
一、だから君は永続しない
──それは間違つてゐます
私が恋してゐるではなし
私が恋されてゐるのです

君もさては愛の奴か?
──それはわかりません!


7. 非愛玩動物

柴犬が好きなのね
きつね色の愛い奴
黒目がちで全く今
何考へてゐるのか
見当も付かぬ奴よ

今すれ違つたのね
飼ひ主とも私とも
誰とも違ふ方向を
誰も居ない方角を
見つめてゐた奴よ

問ひ質してみたい
何が見えたのかと
何も云はないでと
何も言はない奴よ
三角耳の賢い奴よ

三角顔の愛い奴よ
三角形の不思議よ
私の底辺と高さを
掛けた処を割つて
でも分からない!


8. 割礼の儀

一献、二極、三昧、四韻……

歴史は繰り返す、と
そんな当たり前の事を
埋没してしまつたのか?
自然、当然、当たり前にね

今に始まつた事ぢやねゑぞ
恋とか愛とか五月蝿いねゑ
今に始まつてやつちまふぞ
怠けるもんか一日足りとも

当たり前の事を何故かうも
皆して有り難がるんだ?
有り難いなら滅多にね
喜んではゆけぬ、と

五鈷、六界、七条、八重……


9. 五十歩百歩千歩万歩

食へ──
(※2)めんでゑこと、退屈なこと
言つて自ら酔つてんだから
世話無いわ
そんな異論あり

喰へ──
原始人サヰドからデヰスり
云つて己が酔つてんだから
世話無いわ
こんな反論あり

その言葉、論争自体が文明の自覚を持たないで
この言葉、論争自体が以前の立場を取らないで

九衛──
めんでゑこと、退屈なこと
語つて我ら酔つてんだから
世話無いわ
みんな持論あり

全ては歌詩と変はらんから


10. 太陽さん/\月らん/\

と或る男の告白──
私が魚介類を口にしませんのは
生ぐさゝといふ事にしといてよ
でも食べられないのは本当です

(その頃、天上では)

太陽さん/\月らん/\
異論・反論・持論も無い

太陽さん/\月らん/\
陰陽・引用・関係が無い

太陽さん/\月らん/\
詩人・微塵・関係が有る

全ては月の光と大差無いから


11. 不燃ごみ/有害ごみ

と或る男の告白──
私が魚介類を口にしませんのは
海へと帰つた時を考へての事よ
でも土に還るつもりだし嘘です

(その頃、地上では)

燃やすなら恋が良いよ
燃やせる内の恋が良い
燃えた後の煙で咽るが
燃えた後の余韻も良い

愛とか欲など燃えんもんは燃やすなや


12. 十二行詩

この詩でもつて十二編とな
もう一編は余計でせうなあ
どれくらい余計かと言ふと

あ、さうだ、今迄の十一編
現代の物理化学の見地から
検討してみてくれませんか

それで詩の一編でも出来て
芸術に値するか見てみたい
学問してみたかつた処でさ

さうかうする内に十二編目
何も語らぬまま終わりそう
こりや余計だつたかしらん


13. 呪ひの13連装カノン

人間関係を最優先としないまでも
無下にはしてこなかつた

しかしこゝに作品だとか並べると
無関心でしかなかつたと

人間関係にきつと無関心であつた
人の事を嘗めてゐたのだ

詩や随筆や小説や詞曲の小節やら
書いてゐると不満が残る

その箇所どうにかせんとゝ足掻く
書き足し継ぎ足しをする

これが人間関係の不満の箇所なら
いつそすぐに削除をする

そんな事しない方が良い気もする
作品では一切やらんから

或いはこれを正当化する為にだな
作品で断捨離をするのだ

あゝ恐い怖いと躊躇するのはだな
作品関係が最優先だから

ダブルスタンダアドの二枚舌だな
このまゝぢや最低だから

しかしこんなあけつぴろげにだな
みな吐露して作品だから

やはり人間関係より作品が大事か
痛くも痒くも無いもんな

フアツシヨン孤独だ寂しくないだ
呪はれた13番目だもんな


14. 読書の時間です

他愛の無い話をされて怒つてゐるんぢやない
他愛の無い話はむしろ好きだ
他愛の無い話の振りをして
他愛の有ろうとするから

恩師でもねゑに説教せんといてください
さもなくば講釈を垂れます
全く一編の詩にもなりやあしない
全き詩人がどうにか読ませてみせますが

全て詠ませてみせますとも


15. 詩作の時間です

むかつくことがありすぎて
詩作どころぢやあない
綺麗な言葉を冷静に選べない
綺麗事を言ひたいんぢやあない

それぢやあいつとおんなじだ
詩作どころぢやあない
神の御告げや御神託あたり
その実コピヰ&ペヱストばかり

そんなにヲリヂナルがうらめしいですか?


16. 寸劇“大言壮語”

そのまゝ大口を叩いとれ
間違つても弱音は吐くな
余計胃にむかついてくる
そこはせめて強気で居ろ
同情どうぞ/\結構だと
飲み込め/\呑み込んだ
名言で飲み込もうと悲劇
名言に呑み込まれる喜劇

どんな言葉も君よりかはでつかいのでした

脳髄や言語による大勝利
弱肉強食の断絶と転覆と
身体能力に超越的な態度
肉体は従順に劣化します
脳髄や言語による大誤算
老若男女の断絶と転覆と
自然摂理に超越的な態度
精神は汲々に烈火します

どんな言語も君よりかはちつさいのでした


17. レトリツク游泳法

海だ愛だ
いや溺れてみたかつた
でもそうすつと
海だ愛だ
分からんくなる

音楽だ文学だ
分からんくなつた試しがあるか?
まだ溺れてないんか?
すごく浅いんか?
アサヰンされてないんか?

そのコヲド進行
──潮の満ち引き
この叙述トリツク
──恋の駆け引き
黙つて泳がせてください

“君の実家の方は魚の旨い処ぢやないか?
しかし食へないなんて勿体無い!”


18. レトリツクU.F.O.

焼きそばをよく食べては太つてしまつた詩人
焼きそばで太つてしまった詩人はよく食べた
焼きそばの詩人はよく食べて太つてしまつた

“悪いのは私ですか焼きそばですか?
しかし食べないなんて勿体無い!”


19. 文字の羅列の錯覚

こゝまで聴いてくれてどうも有り難う
さぞ人の境涯といふものに想ひを巡らせた事でせう

詩人気取りが思ひ馳せる訳ねゑだらう
単なる文字の羅列の錯覚ぢやねゑか

さういふ声もあるかと思ひます
しかし一つ本当があるとするなら

たとひそれが文字の羅列の錯覚だつたとしても
錯覚させるに想ひが必須なんであります

どうやつても境涯がいるのです


20. 666

あの象徴詩ときたら
何一つ分からねゑのに
何もかも囚へようとする
呪ひつてさういふもんだな
そしてほら見て御覧なさいな
あの肖像画の闇が染み付いた顔

いや写真
いやらしい
棒とレヱルの
観念連合用ゐて
モチヰフ異化作用
高速上下前後運動す

ボヲドレヱル
ボヲドレヱル
ボヲドレヱル
ボヲドレヱル
ボヲドレヱル
ボヲドレヱル


21. 北陸道にて

コブウヽン
コブウヽン
コブウヽン

爆音にせんと逝けぬカタルシス
語らぬで死すよりカタルシス
1969年は何も無い年だつた

“ヰギイは3度、飛び込みました”
“ピヰナツバタアを塗りたくつてゐます”
“ヰギイが、また、消えました”

デトロヰトの一風景を
何故に懐かしく思ふ
1989年は何も……

“ソニツクブルウ、見せてやれ”
“ガラスのミツシヨンと揶揄された”
“アクセル、ベタ踏み、6速へ”

フシユンツ
フシユンツ
フシユンツ


22. 404

小松から馬込文士村
馬込文士村から高円寺
高円寺からまた小松

一向に辿り着けないぞ
ミシガン州まで飛行機だ
旅客機、この胸目掛け

脳内妄想まで飛んでゆけ
ピヰチネクタア一口飲んで
幼少期まで帰つて来いよ

ゴクリ/\頭に投影される
映像は幼稚園の頃と桃の香り
目の前の君が何と云つても

僕の言葉しか響かない届かない


23. 雌雄詩曲

一度やつちまへば自分のもん
自身のもんになつた気がして
悲喜交々の胸騒ぎはおさまる
憧れた習慣を眺めてゐられる
しかし哀しいかな、誰の仕業
それ何処まで行つても君の詩

真面目なもんで
どんな些細な事も
大事にしては考へた

何度やつても誰のもんでなし
他人のもんになつた気がする
悲喜交々の胸騒ぎはたえない
慣習に憧れて眺めてゐられぬ
しかし嬉しいかな、私の仕業
これ何処まで行つても私の曲

不真面目なので
どんな重大事をも
茶飯事と受け流した


24. 偉大はかくも卑小なり

神様がどれだけ偉大かを語るに
仏様はさうですかとただ頷いた

偉大いふものは卑小に見えるに
偉大より偉いのは寛大と思つた

人様がどれだけ偉大かを語るに
貴方様は卑小で居れば良かつた

誰かを食つて大きくなつたもの
丁度いま喰はれては小さくなる


25. 青年の特権

煙草吹かすばかりで
何も言はぬ女
青年ハンスとう/\気付かず
踏み切れず結ばれず
魔の山

縫物織り込むばかりで
何も云はぬ女
青年フヱリツクスとう/\気付かず
踏み切れず結ばれず
谷間の百合

暗黙の了解は婦人方の前提
言はぬで云ふでしかし
青年ノリヒロとう/\気付いて
踏み切つたが結ばれたが
山堕ちては谷間擁く

そのまゝ青いまゝ
悶えて居ろ
否が応
じき色褪せる
分る、解る、判る


26. 壮年の特権

中世つて中途半端だなと思うだらう
現代の方が徹底的で容赦ないと思う

原始から徹底してあゝ為つた時代を
原始から徹底してかう成つた時代と

山あり谷ありのどちらがどつちだろ
中世の方が山で現代の方が谷だらう

中世は地位だ名誉だ此処に極まれり
現代の方が原始に帰る中途半端だろ

身も蓋も無い性欲だらう


27. 老年の特権

多様性、多元論
多角形、多面体
多義的、多細胞

嘘嘘嘘嘘、単細胞
日本を出たら日本の良さが分かり、年を重ねたら年の……
単に好きだ、純に嫌ひだ

閑かにせい、話になりまへん
故きを温ねて新しきを知れば、以つて師と……
嘘嘘嘘嘘、単細胞

幼年の特権を取り戻せ!


28. 詩人の特権

文武両道、完璧過ぎて
魅力の無いのが人生の下手

欠陥人生、偏り過ぎて
魅了されるのが生活の下手

人生の上手は、文武に欺かれるな
生活の上手は、人生に騙されるな

もう悪い事は言はない
セツクスに迷はされるな
ドラツグに惑はされるな
ロツクンロヲルに踊らされるな

もう詞しか云はない
夢は無限大!!
何だこの嘘くさゝ
有限が何言つてんだ?

私は常に嘘を言ふのだ
この文言も嘘に含まれる
さもなくば事実も云はれぬ
これだけが真実であるとして


29. 対煩悩五鈷

用も無いのに人形を買つた
英国の近衛兵の
赤いナポレヲン
そも/\人形の用つて何だ

洋服の、冷蔵庫の、鍵穴の
必要の不可欠の
要請の不可逆の
無えのが有り得ぬつて事は

んなもの忘れ得るつて訳だ
詩集は白い紙の
初恋は黒い髪の
トラウマ忘れ得ぬつて訳だ

どちらかだけぢや不満です
赤いナポレヲン
洋服の、冷蔵庫
どちらもあるから矛盾です

んなもの行き難い真理です
詩集は白い紙の
初恋は黒い髪の
トラウマ生き難い心理です

情け無い──君が居ないと世界を帯ぶれない


30. 日々是一献

君はまるでワアグナアだな
偉大な音楽家の方ぢやなくて
フアウスト博士の助手の方のだ

人生の悩みは無さゝうだな
研究の悩みは沢山ある様だが
人間をそこから眺めて居なさい

つひに人間を創り上げたか
君たつた一人で完成させたか
ただし再び独りになるだらうな

試験管ベビヰも自我を持つ
人間界を求めてガラスを割る
君に似て彼もまた独り身となる

プラスもマヰナスも無いさ
イコヲルにしたいんだらうな
でも君は1を倒した罫線記号だ

有り難う──君が居ないと世界が締まらない


31. 梯川から来た男

ヰントロはみな“ヲギヤア”ですか
“ヲンギヤア”で良いんですか、君
さもなくば言葉を覚えてください

あんまり真面目なもんで
不真面目に怯えてみせる
あんまり真面目すぎたら
不真面目なんぢやないか

恥ずかしい処を見てください
実は何も恥ずかしくありません

不真面目に違ひないだろ
あんなに真面目な顔して
不真面目で居られるのは
あんなに真面目な人だけ

立派な部分をご覧に入れてください
実は立派の一欠片もありやしません

このバアスは一体なん/\ですか
言ふ事を云はれた事と打ち消して
リバアスですか?いやリバアです

この川を何回見たろうか
運が良くても百回くらい
たつた百回たつた百年
──哀しいか
ゆうに百年ゆうに百回
──楽しいか

髪髪髪、抜けてゆくばかりの精魂
そいぢやあ/\ドス黒い物の哀れ
また来いや、待つとるぞ

あの川を何回渡ろうか
運が良くて一回くらい
たつた一回たつた百年
──怒れるか
ゆうに百年ゆうに一回
──喜べるか

神神神、惚けてゆくばかりの性格
(※3)じよんなあ/\霊験あらたかなれ
また来いや、待つとるぞ

自づから安宅の浜辺に漂着しけり
死んだらどうもかうも無いものを
生きる方がどうもかうも成らずで
生きながら死ぬのも有りだらうと
死よりかどんな事も為るだらうと
自づから安宅の海の藻屑と生りて

紙紙紙、白けてゆくばかりの生活
やつたあ/\また新たに書き殴れ
また来いや、待つとるぞ

KAMIKAMIKAMIKAMIKAMIKAMI……


32. ゴヲストノオト

こゝからは蛇足です
のんびりと過ごす余生です
さういふ生き物になりました
てく/\と歩く滑稽な
巳年の己がやつてくる

こゝからは日曜です
何にも予定の無い日々です
毎日が日曜みたいなものです
段落だ行間だ知るかよ
知るかよと知つてゐる

歓喜に終はる傑作だ
悲哀に沈む名詩編だ
だから一つ前辺りで
終はらせておけばよ

しかしふざけたくて
さうだ終はらなくて
人生とか生活の奴等
奴等ふざけてゐるよ

こゝからは休日です
だらりんと過ごす死後です
さういふ憑き物になりました
ふら/\と漂う笑止な
禁忌の己がやつてくる

こゝからは蛇足です
何処にも前例の無い蛇です
毎日が散歩みたいなものです
頭韻だ脚韻だ知るかよ
知るかよを知つてゐる


33. 異端者の可笑しみ

悲劇の中でこれは悲劇だと叫ぶ
──これが悲劇になり得ますか
──それは喜劇になり得そうだ
悲劇の中で悲劇への言及を禁ず

喜劇もまた然り喜劇だと叫ぶな
──そんな笑ひで笑ひを獲るな
──こんな笑ひで笑ひを得るな
喜劇における汎ゆる喜劇も禁句

三島もニヰチヱも耽溺してゐた
──希臘の知をいま一つ掴めぬ
──希臘の地をもう一つ踏めぬ
ヘルデルリンでも朗読しなされ

ヒユペヱリヲンでも読みなされ
──新宿の紀伊國屋にあつたよ
──万引きしたら横尾忠則だよ
岩波から復刊されてゐたんだよ

河出もバタイユを復刊なさいよ
──丸の内の丸善にもあつたよ
──檸檬爆弾の梶井は京都だよ
空の青みが古本屋だと高いんよ

悲劇の中でこれは喜劇だと叫ぶ
──私の悲惨な毎日は愉快です
──私はさう思ひませんが神は
喜劇の中で悲劇への言及を禁ず

角川も早くバタイユを
生田訳のを!


34. 凹凸フアツク完璧

希望ばかりか絶望まで分捕られた
皆が思ひ付く様なものは皆
呑み明かした朝の倦怠や
六畳一間の寂寞や孤独
痴情のもつれや自殺未遂
命の全て漏れ無く在り来り
私なぞが演らなくとも他の誰かが

六畳一間の換気や歓喜
呑み明かさぬで眠れぬぞ
詩作における早朝の勝利や
昼過ぎては夕方が二度目の朝焼け
誰にも共有されぬ時間軸や
未だ形而下に見られぬぞ
私なぞの謎の偉業の業

独りでにずつぷりと嵌る人間の業
お天道さまが見てゐる

ほら眼に見えるもの
これにて方針立つ
何もかも勃つ

「お前やつとか」
「嗚呼あなた遂にやりましたね」
「やりましたよ」

上から声する
神なんかぢやない
ほら目に視えるもの

君だけが目撃してゐる
皆居なくなつちまつたが君だけは

完璧完璧完璧完璧


35. コンクルウヂヨン

山羊だ山羊、山羊の歌から、在りし日の歌

行き過ぎた保守は革新と同じく
──否
行き過ぎた革新も保守に違ひなく
──否
行き過ぎた保守の革新は保守に等しく
──三たび、否

“ダヾヰスト憲宏の詩”


(※1)てんぽに:桁外れに、大袈裟に
にんがし:賑わしい、騒がしい
(※2)めんでゑ:格好悪い、みっともない
(※3)じよんな:唐突な、奇妙な


~~~~~~



 原稿用紙四十五枚程を三日で一気に書き上げたので、止め処無き意識の濁流に逆上(のぼ)せてしまい、推敲時も何が良いんだか悪いんだか判らなくなる位だったが、今は打ち上げられた彼岸にて、呑気に足組み横になり、後書き気分でこれ叙(じょ)する、世界で一番腑抜けになった。取り急ぎ三十五編、齢(とし)の数だけ詠(えい)じてやった。



 そうだ常に念頭にある、手前のルーツが頭の片隅に。父方の祖父、祖母、母方の祖父、祖母、更にさかのぼって上の方の人、人、人。いつまでも大切に、忘れないでいたい……ダダイズムと対極の保守的な考えかもしれぬが、ダダを破綻させるのがまたダダであり、これぞダダの最たるものと考えるが故、今度ダダイストを自称した。



 全ては詩集を編(あ)む為の、全き詞曲を纂(あつ)める為に──破綻破綻破綻。私は読みますとも聴きますとも、私に詠ませますとも訊かせますとも──ダダダダダダ。私は/私に、主語から目的語に成り果てた──破綻破綻破綻。ドグラ/マグラ、単なるドグマぢゃ──ダダダダダダ。



 ブルトンが宣言した百年後に、憲宏が先言(せんげん)した百年前に。憲宏が残したノートの百年前に、中也が遺したノートの百年後に。



 “習字ぢゃない書道だ”、“真っ直ぐに書け、ド真っ直ぐだ”とは高校の恩師(書道の先生)より、サムネの題字の為、十数年振りに書道をしたが、誰にも縛られない書道は──しかし何度も上記、恩師の言葉が脳裏に去来した──家で独り創作の為の書道は、あっという間の二時間で、それはそれは心底楽しかった……年の瀬に新しい趣味が一つ増えたかもしれない。


2024年12月15日日曜日

深緑(93歳の谷川老人に感化された詩)

おはよう。先日、岩波や新潮のツイートで、谷川俊太郎の訃報(ふほう)を知った。次いで、紀伊國屋や丸善の“追悼フェアやります”というツイートが流れてきた。今はもう地上波を一切観ていないので、テレビでもこの逝去(せいきょ)が散々報じられたのかどうか、恐らく散々報じられたのだろうと思う──それだけの人だ。

 私は特段、谷川俊太郎に影響を受けているものではない。謂(い)わば影響を受けていないという、それだけの影響を受けているものである。それは例えばミスチルとかB'zとか、この時代・この国に生を享(う)けたものの宿命である。踏み絵を踏むか踏まぬか、それだけの運命である。谷川俊太郎の詩は私の趣味ではないが、否応(いやおう)無しに知っている。前述の通り時代か国か、義務教育のせいで思い知らされている。だから私の趣味ではないが、ここにその思いの丈を述べたいと思う──

 良くも悪くも私は影響されやすい質(たち)で、この前書きからして既に谷川俊太郎っぽい、ならば冒頭の“影響を受けていない”という主張は嘘になる。それでも“影響を受けていない”と言い張る、やはりそれだけの影響というのが実(じつ)の処である、何故なら頽廃(たいはい)・耽美(たんび)は彼を拒む──しかし全く無関係では居られないのが実情だ。


「深緑」
by Nori MBBM

第一部・確定日記(確と定むる詩編)

令和6年4月11日(木)、上巳の節供

深緑
淡い深緑
新しい深い緑
繰り返す事の深緑
言の葉の入り組む深緑


令和6年4月16日(火)、春土用入

意味があって
言葉があって
その先に詩があって
何て今は吹聴されている

みな逆だった
その逆だった
まず先に詩があって
耳から頭吹聴されている

言葉があって
意味があって
詩は必要なくなって
いつしか立場は逆転した

役に立たねえ
飯も喰えねえ
詩人風情が偉そうに
詩とか云って気取ってら

みな逆だった
その逆だった
覚えた順に思い出せ
君だって元は詩人だった

役に立たねえ
飯も喰えねえ
赤ん坊の頃忘れたぜ
社会人だって気取ってら


令和6年5月1日(水)、八十八夜

身体が万全だった時など
数える程しかなかった
精神が万全だった時は?
それより多かったかも

これが逆の人も大勢居る
むしろその方が多数派
彼の方が少数派だったに
昔は谷川俊太郎の方が

見事に入れ替わりました
日本一有名な詩人から
現代は現代詩その一手に
掌返しをされちゃった

夏も近付く八十八回の夜
そして八十九回目から
精神は身体的その一手に
掌返しを決めちゃった


令和6年6月10日(月)、入梅

物理的には唯一無二なんです
その時点で希望ですし
その時点で絶望ですし

過去・現在・未来は無いです
その時点は唯一ですし
その時点も無二ですし

人類は黴胞子か黴の奉仕です
その時点で希望ですし
その時点で絶望ですし

空間も肉体も只一つなんです
その時点は想像ですし
その時点も創造ですし

谷川さんも私も一人なんです
その時点で希望ですし
その時点で絶望ですし


令和6年6月10日(月)、端午の節供

生活が地球の歴史を遮断する
遮蔽物となり見えなくする
遅刻するな、駅まで走れ、と
鍵閉めたか、引き返せ、と

人生が宇宙の歴史を遮断する
遮蔽物となり見えなくする
あの先公と水泳、跳び箱、と
月一の全体会議、面談、と

生活と人生と歴史を確認する
地球と宇宙と見え易くする
日本史も世界史も自分で学ぶ
契約も条約も独りでに結ぶ

人生と宇宙と生活と地球とを
見ざる人間を見え易くする
言わざる大人の恋して鯉昇る
聞かざる子供の兜で着飾る


令和6年7月1日(月)、半夏生

生活は間断なく
人生は間断なく

私をかろうじて繋げる
どんな身勝手にだって
今に記憶喪失したって
だから他の奴にだって
繋がなくって良いって
お構いなしだな君って
僕出て行ってやるって
地球と宇宙を聢と見て
それでも死ぬ迄はって
人をかろうじて繋げる

人生に間断なく
生活に間断なく


令和6年7月19日(金)、夏土用入

詩集の為に詩を書いてみましょう
さあ詩人を名乗ってみましょう

ちょっと何言ってるか分からない
それってあなたの感想ですよね

ちょっと何言ってるか分からせる
それってあなたの妄想ですから

詩集の一言一句に云われましょう
さあ詩人が全てに答えましょう

それぢゃあ木々って何で生えたの
あの枝葉の形状って何が何なの

それぢゃあMBBM結成しましょう
あの結成の日付って何が何なの

詩集の一語一語の形を見ましょう
さあ詩人は何故愛でたでしょう


令和6年8月10日(土)、七夕の節供

人間の三大欲求に疲れたら
自然の無用無欲に浸かれよう
優しいのね、あなた、優しいの

手前を最低な人間と思う時がある
彦星が織姫を犯す穢らわしいものと
明日まで生き延ばすに必要なもの

険しいのね、あなた、険しいの
自然の無用無欲に憑かれたら
人間の三大欲求に就かれよ


令和6年8月31日(土)、二百十日

知っている
覚えている
名前もその形も
山道

知っている
覚えていない
名前もその形も
谷川

知覚は当てになりません
知覚は当てになりません

知らない
覚えている
名前もその形も
歴史

知らない
覚えていない
名前もその形も
明日

近くは果てになりません
近くは果てになりません


令和6年9月10日(火)、二百二十日

着物の糸
ギターの弦
君だけの怒り
恋人との繋がり
こんなものが人を

きゃあきゃあと
ぎゃあぎゃあと
うぇんうぇんと

云わせるのかよ

着物の糸
ギターの弦
君だけの怒り
恋人との繋がり
そのまま見せても

きゃあきゃあと
ぎゃあぎゃあと
うぇんうぇんと

言わぬであろう

着物の糸
ギターの弦
君だけの怒り
恋人との繋がり
切れただけなのに

きゃあきゃあと
ぎゃあぎゃあと
うぇんうぇんと

泣いてくれるな


令和6年9月17日(火)、中秋

ジミヘンに弾かれて切れた弦
燃やされて灰になった弦

バーナード・バトラーの弦
妖しく喘いで鳴いた弦

張られたばかり未使用弦
まだ歌う事知らぬ弦

変な押さえ方された弦
和音も知らぬ六弦

ドロップDで張る弦
ゆるり駄弁る弦

何をか云わんや弦
己がギター弦

中秋の名月の弦
月の半分こ弦

月の上弦
下弦


令和6年9月19日(木)、彼岸入

だからこの声帯で
君を笑わせたんですね

しかしこの声帯は
何も特別ぢゃないです

通り道なんです、ただの
ただ感情や言葉はいつも
愉快だと褒めてくれます

この声帯その声帯
見分けが付きますかね

あの声帯その声帯
赤いスジ肉の二本の柱

一本道にて佇む、ただの
ただいつか解剖医にこう
平凡だと切り裂かれます


令和6年9月21日(土)、社日

私の想像に立ち入ってくる
彼の詩が頭を過る
邪魔しないで欲しいと思う程に

私は五月に生まれたのに
季節外れて
真冬の風景を懐かしむ

言葉も知らない物語
どうやって語ろう
彼に頼りなよ

彼の創造に立ち入ってゆく
私の事を思い出す
邪魔しないで欲しいと想う位に

彼は十二月に生まれたに
季節外れで
春の光景を偲んでいる

物語も知らない言葉
どうやって言おう
私に頼りなよ


令和6年9月22日(日)、秋の彼岸

生きている間は
この心身が抵抗
亡くなった後は
この詩編が抵抗

定義付けされて
無抵抗にされて
無問題にされて
承知致しました

生きている間は
この詩編が抵抗
亡くなった後も
この心身の抵抗

定義付けされて
愚者達によって
賢者達によって
承知致せぬまま


令和6年9月25日(水)、彼岸の果て

二つの話に尾鰭が付いて
気付きが問題提起する
より考える人となる
闊達な議論をする
より良い答えを
異論反論する
何が哲学だ
何が詩だ
文字数
不足

気付きは何も提起しない
問題も答えも知らない
考えない方が良いと
討論など以ての外
愚者がやる事よ
賢者がやる事
比べる事よ
哲学者は
詩人は
野蛮


令和6年10月11日(金)、重陽の節供

地球は人の物ではないのだよ
ぢゃあ自然の物なのかえ

自然も自然で不自然みたいに
他の自然に追いやられる

人間と人間も自然と不自然な
特別などと思い上がるな

お前はちっぽけな大海原だよ
俺はちっぽけな大樹だよ

明日消えるやもしれぬ運命だ
隕石で宇宙で皆で自然だ

誰の物なのさ教えておくれよ
そう思うのが自然の証だ


令和6年10月20日(日)、秋土用入

伏線を張ったり回収したり
文字数や段落を調整したり
几帳面ねえ神経質ねえ貴方
嫌味みたいだけれど凄いわ

何故凄いと思うのだろうか
これは生理反応と条件反射
地球が回るのと海、雨、川
その循環進行と輪廻の信仰

伏線を張ったり回収したり
文字数や段落を調整したり
几帳面ねえ神経質ねえ宇宙
地球みたいだけれど凄いわ


第二部・予定日記(予め定めし詩編)

令和7年1月17日(金)、冬土用入

お気に入りの着物や洋服を
座右の書や積ん読の書物を
ふと手にすればカビていて
何だ君もかとガッカリする

気になっていた女や恋人に
しょうもないバンドマンに
唾付けられてはポイされて
あの頃の僕とガッカリする

カビは知らず知らずの内に
健気に今日もどこかを這う
その醜態が誰かさんに似て
人類は人間にガッカリする


令和7年1月29日(水)、旧正月

用意、ドン、始め
かけっこみたいな
それは引き千切る

ゴールテープの様
あの仕切り千切る
未来の約束と契る

綺麗な始まりなど
建前だけで本音は
過去は綺麗に切る

変わらぬ年の始め
変わらぬ年の諦め
いつかバンドをば

いつかMBBMをば
終わらせた日には
終わらぬ詩を始め

大切な想いもキル
超オーヴァーキル
強制終了昨年師走

走れ一位あるのみ
一日だけが大切だ
用意、ドン、始め


令和7年2月2日(日)、節分

何も取り柄が無いとして
そいつは死んでいるはず
生きてそれは出来ぬはず
鬼は外、福は内、鬼は外

何も悩みが無いとしてだ
そいつは死んでいるはず
生きてそれは出来ぬはず
福は内、鬼は外、福は内

どう足掻いて抵抗しても
何かしらの才能があると
生きてそれが出来ぬなら
死んでしまって思い知れ

思い知れない死後なんて
反論するだけ元気な才能
異論を唱える野暮なオニ
生きている内に思い知れ

息している内に思い知れ
粋は野暮でなし想い知れ
イキってみろよ思い知れ
逝き過ぎるなよ想い知れ


令和7年2月4日(火)、人日の節供

夢や幽霊は悪戯に
人や品性を惑わす

もう邪魔しないでよ
そういう人間は何に
何に喜びを見出すか
何故涙を流したいか
取り返しの付かぬ事
結婚、出産、大成功
離婚、死別、大失態
そんな単純なもんか
取り返し付けてやる
もう邪魔しないでよ

人の品性を惑わす
夢の幽霊は悪戯に


令和7年3月17日(月)、彼岸入

地獄は温まるねえ

仕合わせな時代に
不仕合わせを知る
衣食住の心配なし
人新世の懸念あり

地球温暖化でなし
環境問題やむなし
肥満児の退屈だし
人質解放の訳アリ

煉獄は丁度良いね

地球温暖化でなし
環境問題やむなし
栄養失調気味だし
囚人生活の訳アリ

不仕合わせな時に
仕合わせ思い知る
衣食住の懸念あり
人新世の心配なし

天国は冷え込むね


令和7年3月20日(木)、社日

プラモデルを手に取り
誤って壊してしまった
それ制作した長兄から
物を作るのは大変だが
物を壊すのは容易いと

そう叱られた事がある
これは結構真理であり
末弟の心理に巣食った
善悪の理非すら救った
だから僕は殺人しない

恋愛する事はするけど
何か作るのはするけど
何か壊すのは御免だと
人生生活、地球宇宙と
プラモデルを手に取り


令和7年3月20日(木)、彼岸

今は住む人の居ない母の実家の二階に
兄の作ったプラモデル達が展示されている

そこには母が少女だった時の部屋とか
母の父である祖父の蔵書が沢山眠っている

窓のサッシのレールの溝には蜂が一匹
何に蝕まれるでもなく疾うに亡骸も乾いて

きっとこの蜂が蜂と飛び回っていた頃
祖母が洗濯物を上げに来たり取りに来たり

一式陸攻、B29、F4、A10手に取ったり
眺めたりする人達が何をか語った事だろう

久し振りに上がった二階は不思議にも
母の部屋も祖父の本も兄達のプラモも何も

変わらぬままそこにあって当時のまま
僕の作ったプラモデルも一緒に置いてある

動かぬそれを見ていたら声が聞こえた
プラモの、プラモを囲む人達の語らう声が


令和7年3月23日(日)、彼岸の果て

テレビを観なくなった
ネットでも散見されるフレーズ
ネットも見なくなった
己が周りでも聞かれるフレーズ

ぢゃ何を見聞きして?
人によるだろうが己がフレーズ
己がフレーズは同時代
同時代性を避ける己がフレーズ

今の流行りよりこっち
だなんて格好つけないフレーズ
無闇に群れたくはない
ニュース見出し撲滅のフレーズ

報道の何が腹立つって
皆こじつけようとするフレーズ
無関係で居られるか?
現にそうして居るのだフレーズ

これが見聞したかった
みな関係しようとするフレーズ
朗報悲報速報やるよ?
そのくせ情報だけ空のフレーズ

街から目を離すと太陽
月ゆったり何時だって触れ得ず
触れ回るのは止めなよ
言葉だって本来は常に触れ得ず

五七五だ五七五七七だ
ソネットだ14行詩だ
そういうものを避けて我が形式は生まれた

しかし俺は俺の形式すら拒む
もう文字だ段落だ揃えようなんてうんざりだ
好きにやらせろ、そうだ

律儀に生え揃った草花など
自然が不自然の悲しさ、可笑しさ、憤ろしさ
人工美の限界なんだ

グラムロックは限界か?
自然回帰LOVE&PEACE戦争反対ヒッピーのカウンターぢゃなかったか?
フリーセックスしか出来なかった無脳なヒッピーの?

嗚呼、グラムロックは人工美だ!

だからよ、人工美が人工美にやられるな
俺は俺の形式すら拒む、そう云った
好きにやらせろ、そうだ

とびきりの頽廃芸術

我が極彩色を誇りに思う
幾ら誇りに思った処で
それは無色や潔白を恐れる
強がりは臆病の証左
或いは、悪戯に色々を塗りたくる
幼児の幼稚な混沌、混乱
未分化の知性

未分化の人性
そのぐちゃぐちゃな色
色々を混ぜた汚いカラー
汚らわしいから
穢らわしいから黒
識別できない黒
この極彩色が黒?
まあそれもよかろう
私から言わせれば
白々しい君の意見だ
そこに誇りを持っているんだろ
愛と平和で戦争をなくせ
この黒が塗り潰す前に
闇夜と呑まれる前に

悟りの境地の謎解きより
一休さんの謎々より
そんな白けた答えより
白々しい真理より
真っ黒で訳分かんねえ方が
世界だ宇宙だ

もっと白けてみろ
白けさせてみろ
平和
その何倍もめちゃくちゃに
フリーセックス
塗りたくる色
ヒッピー
お前も黒だ
お前が黒だ
人間だ人類だ

詩は詩の無意味性のみに属す
気負いなく力なく然り気なく云ってみろ
嗚呼、詩は詩の無意味性のみに属す
気負いまくって力みまくって下心ありありで言ってやる
徹底的にやってやる

君は別に特別ぢゃないから
(と云う訳で特別を頂きます)
お前だけが特別な訳ぢゃないから
(と言う訳で特別を奪い返します)
徹底的に戦ってやる

白々しい
愛と平和
戦争反対
という戦
自作自演

白々しく
白けた髪
白けた神
白けた紙
自作自演

君、幼稚な純粋性を謳うよに
成熟の不粋をぶちまける

粋で居られぬ不本意を
不粋が自爆の願望で

夜勤明けで読んだ谷川俊太郎の詩が全然良くない。偽善と耳に響く。彼からしたら余計なお世話だ、関わってくれるなって。

先日、寝る前に読んだ谷川俊太郎の詩は、良いな、と思いかけていた処だったに。彼からしたら余計なお世話だ、関わってくれるなって。

谷川俊太郎に原因があったとして、仮にその詩をまるまる剽窃し、手前の名義で発表したって、やはり純粋に詩の一編のみが悪い、とは断言できぬほど、詩集の詩の一つ一つから彼が、彼の態度がそのまま言葉の態度となって、そこに文体として居座っている、無理な話なんだ。彼からしたら余計なお世話だ、関わってくれるなって。

平成日本を生きた身にゃ、無理な話なんだ。ちなみに、朕、という作品が気に食わなかった。あれは谷川俊太郎でなし、作品中の皇帝が書いた、いや実は無名の詩人が書いた、そういう体のものだろう、そのまま谷川俊太郎と取るのはどうか、と知人の詩人(無名)、まさにそこなんだよ、気に食わない処は。無名の詩人からしたら余計なお世話だ、関わってくれるなって。

グラムロックが冗長なアート気取りの音楽を断罪した様に、彼の詩から感ぜられるプログレの様な、飄々とした白々しい態度に、その生温いスノッブに苛立ちを抑えられない、と宣うと知人の詩人(無名)が、そんなに苛付く事か?僕はそもそも興味も湧かないからな、他人いうものに、まさにそこなんだよ、気に食わない処は。気付け、君も彼に違えねえと。無名の詩人からしたら余計なお世話だ、関わってくれるなって。

令和日本を生きる身にゃ、無理な話なんだ
グラムロックがパンクロックとなった様にさ
ダダイズムがシュールレアリズムとなった様に
みな変わり果てちまうんだ
だがしかし俺だけは!!

手前の詩を誰にも
何にも捧げない
それがあらゆるものに捧げる詩と
その前に一人ずつ
一つずつに捧げたい
これはあらゆるものに捧げぬ詩

あらゆるものに捧げぬ詩を
あらゆるものへと捧げる
あらゆるものに捧げる詩について
それしか方法を知らない
それしか方法を知りたくない

裏技は要らない
逆説も仮説も必要ない
突飛な理論に指摘されても
至極正論を云われても
そんな奴に捧げない
便利な奴に便利な詩など捧げない
不便な詩人が不便な詩のみを捧げ続ける

僕が子供の頃
ラジオ体操へと毎日通ったのは
独り善がりだったのか
言葉に欺かれただけだったか

だってあれは8月の
真夏の朝の下り坂
家の前の下り坂を駆け抜けて行ったから

そう
嘘かよ
そう、嘘
うそ、そう
何だ、そうか
何だ、うそかよ
そう、だったのか
自然回帰というのは
自然に還るというのは
空の青に雲散霧消するは
名も無き葉になるのは
生死も分からぬのは
言葉に紛れるのは
真に生きるのは
死ぬという事
死後の準備
死の準備
讃美歌
美化


令和7年3月31日(月)、上巳の節供

言の葉の入り組む深緑
繰り返す事の深緑
新しい深い緑
淡い深緑
深緑


~~~~~~


 昨年はたまたま谷川俊太郎の処女詩集「二十億光年の孤独」を古本屋で何となし買って読んで、すぐに手前で詩作してここに掲載する(2023/5/35/18)という軽薄な事をしたが、その時は勿論今年逝ってしまうなんて知る由も無かった。谷川俊太郎を今まで自発的に読もうと思った事など一度も無かったのに、何てタイミングだ、こんな事をわざわざ書かせるなんて、タイミングが悪かったんだ。しかし谷川老人はそれを、タイミングが良かったんだ、と云う気がしてならない。また同様に彼が、何てタイミングだ、と嘆く時は、良いタイミングに違いない。

 そういう関係に陥(おちい)っている。私らしくもないのが、全く私らしいが、それをいつも彼は知らせてくれる──それだけの人だ。

【MBBMの日めくりバーニン八重】自信を持ってグラムロックが、頽廃(たいはい)芸術が好きだと言える。グラムと頽廃が何の疑いも無しに、ロックと芸術をしないからである。その思想・命題が既に、矛盾と破綻をしている。何食わぬ顔で成立・存続し、堂々と笑っている。堂々と笑える、が故に。ドグマッ

 今日の140字はこう詠(よ)んだ。谷川俊太郎も堂々と笑える、笑われる用意がある、という点で尊敬している。


 彼が生きていれば、今日で93歳だったらしい。今日(こんにち)在るはずの人に、勝手にスピって感化されただけの朝──これを悼辞(とうじ)に代えさせて頂きます。合掌。