2020年12月17日木曜日

“This is real, not nostalgic.”

おまえ、葡萄(ぶどう)の木よ。なぜおまえはわたしを讃(たた)えるのか。わたしはおまえを切ったのに。わたしは残酷だ、おまえは血を噴(ふ)いている──。おまえがわたしの酔いしれた残酷さを褒(ほ)めるのは、どういうつもりだ。
 「完全になったもの、熟したものは、みな──死ぬことをねがう」そうおまえは語る。だから葡萄を摘む鋏(はさみ)はしあわせだ。それに反して、成熟に達しないものはみな、生きようとする。いたましいことだ。
 苦痛は語る、「過ぎ行け、去れ、おまえ、苦痛よ」と。しかし、苦悩するいっさいのものは、生きようとする。成熟して、悦楽を知り、あこがれるために。
 ──すなわち、より遠いもの、より高いもの、より明るいものをあこがれるために。
-ツァラトゥストラ

 ここ数日で急に肌を刺すくらい冷え込んでまいりましたね、師走だろうとマイペースなノリ・エムビービーエムです。我がカバーMVも27本目となりまして、27本ですからね、27、にじゅうなな、にーなな……ニーナ、オーニーナ!!



 という訳で「追憶」です、ジュリーです。私にとって、あらゆるものの理想形は“王道を行く全能感”であり、これ即ちジュリーです。サブカルチャーでもカウンターカルチャーでもなく、堂々たるメインカルチャーです。

 吉井さんが2007年の別冊カドカワのインタビューで、自身の8枚目のシングル「シュレッダー」が持つ楽曲的要素について、“ミッシェル・ポルナレフみたいな感じ”、“フレンチっぽくて、歌謡曲っぽくて”、“沢田研二さんな感じも”と云っておられましたが、ジュリー自体がまさにそう言えるし、歌謡曲でシャンソンで(言語は違えど意味は同じだ)、時にハードロック、ハードにポップでもあり、過剰で偏執的かつ光輝くグラムな存在なのであります(吉井さんのザ・イエローモンキーもそう)。

 つまり、グラム歌謡メタル野郎にとってジュリーやロビンは超自然的な存在でありますが、さらに、世間一般にとっても“王道を行くロックスター”であり、そこが尚更尊敬の念を禁じ得ない処なのであります。滅茶苦茶にマニアックで特級呪物のフェティッシュなのに、何時も大衆の眼前に君臨して居る、その佇まいが堪らんのです。恐らく、陰と陽のどちらも併せ持った状態であり、その器の大きさや懐の深さ、真面目に不真面目で健康不健康な処が、大好きなのです。


歌詞に“白いバラ”とあるので白薔薇を──花言葉は“純潔”、“相思相愛”

 そんな王道を行くロックスター・ジュリーの歌う曲はどれも、煌(きら)びやかに麗(うるわ)しく、雅(みやび)やかに芳(かんば)しく、妖艶で豊潤な、重層的構造を成しておりますが、「追憶」はその最たるものではないでしょうか。ロックともバラードとも歌謡曲ともシャンソンとも言い切れず、まったくその全てである。全てを股に掛けて居る楽曲である。

 ジュリーにしてもイエモンにしても、原曲が理想的で好き過ぎるが故、カバーのアレンジや意義を見出だすのに苦労するのですが、今回は思い切って弾き語りアレンジでやってみました。作曲の加瀬さん(ワイルドワンズ)もアコギ一本の弾き語りでこの曲を作ったのかなと思うし、絢爛に着飾った原曲を本来の肉体美に戻して、生々しく曝(さら)してやる、という算段で御座居ます……まあアコギ一本と言っておきながら、アナログな手弾きシンセを多重録音で入れまくりましたがね(個人的にストリングスとか頑張ったから聴いてみて)。


100年以上前の壁掛け時計も……んゝ追憶(MV冒頭で唸っております)

 今回の撮影場所は、西荻のとあるカフヱーで御座居ます。壁にはびっしりアンティークなハードカバーやカップ&ソーサー、コーヒーミルに一世紀以上前の壁掛け時計、世界に二脚しかないヴィンテージな椅子等々、とても素敵な雰囲気のカフヱーで御座居ました……あ、“カフヱー”というのは大正浪漫気分になってしまったので、小さなカタカナの“ェ”が読めなくなってしまい、つい(ボディーを“ボデー”と言う爺さんが如く)。


筆者による三島由紀夫“薔薇刑”ごっこ

 カバーMVするに当たり、「追憶」が発売されてから四ヶ月後の昭和49(1974)年11月に放送されたジュリーのラジオ番組なんかをYouTubeで聞いたりもしていたんだけど、作詞をされた安井かずみさん(ZUZUさん)のとびきりチャーミングなこと。学生時代にZUZUさんのアルバムを買って聴いたり、お写真を見たりして、もっとクールビューティーで退廃的な御方だと思っていたら、ユーモラスでお茶目で可愛らしく、ますます好きになってしまいました。


 ちょうど旦那さんである加藤和彦さんの傑作“ヨーロッパ三部作”を聴きながら、好い気分のまま筆を置きたいと思います。それではご機嫌よう♪


0 件のコメント:

コメントを投稿