2024年12月31日火曜日

令和六年“榑木之地”完了

目一杯生きるというのは、まず年を重ねるという事だが、これは幾ら生き急いだ処で、人は一年で一歳しか老いる事が出来ないのであるから、おいおい老いてゆく時の流れに身を任すとして、もう一つ目一杯生きるのに、誰しも死のうとするのであるが、これは生きる究極の死、死ぬの対極の生、そうだ生きる究極の死──ゆらゆらタイトロープふらふら──綱渡りの快楽で、決して死んではならぬと云いつつ、自ら死ぬ死ぬ死んではならぬと、そうだ決して死んではならぬぞと、加齢の縦軸と並行して進捗(しんちょく)する、華麗なる横軸の並行作業、ないし平行とは結局これとそれとが延々交わらぬ為に、どんどん独りになるであろうが、この線において、その面において、目一杯生きたという事になるだろう。

 孤独や絶望の実(じつ)は、人類や歴史の常(つね)にちやほやされ、何にも寂しくない様に、何なら賑やか過ぎる位に、嘘っぱちの本当で、孤独かい絶望かい死にたくなんのかい?そんなら良かったぢゃない!こうして、どう転んだって生きてゆけるのだから、そう環境/状況を設定したのであるから、甘く切ないだけの物語ぢゃないか、誰よりも甘ったれて、彼よりも切なる願いをぶち撒けるだけの話ぢゃないか。

 ほらもっと、ちゃんと死にそうになる、来年!!みなさま良いお年を。



 今年も益々有難う、令和六年“榑木之地”完了。


2024年12月30日月曜日

ノート2024


高橋新吉を読んだ事は無い。「ダダイスト新吉の詩」を一頁(ページ)も繰(く)った事が無い。だのに、滅茶苦茶に影響されているのは知っている。

 父方・母方の祖父、祖母の生い立ちや馴れ初めをよく知らない。しかし、よく知っている父、母より自分に似ている気がする、それと同じ道理で。つまり、新吉に影響されて“ダダさん”となった中也の詩は(発表されたものも未発表のものも)よく読んだし、よく知っている。その二番煎じぢゃ仕様が無いから、逆張りをして新吉に似てしまうのだと思うし、祖父、祖母の隔世遺伝を強く意識してしまうのであろう。


「ダヾヰスト憲宏の詩」
by Nori MBBM

1. ヰントロダクシヨン

山羊と山羊、山羊の詩なら、父と母

“ヲギヤア”
──否
“ヲンギヤア”
──否
“(※1)てんぽにゝんがし”
──三たび、否

“ダヾヰスト憲宏の詩”


2. 洒落た人生

例へば五月一日に生まれし人あり
その人は何でもかでも結び付ける
語呂合はせの要領で
こい、来い、恋とか

日々その選択この衣食住を為すに
彼の男は何でもかでも結び付ける
語呂合はせの容量が
一杯/\になるまで

日々その洗濯この人間性を成すに
彼の女は何でもかでも引き剥がす
恋をしまくるのなら
失恋もまたその分ね

春と修羅、春と氷柱、春とツアラ──ダヾはシユウルに奉る

シドは五月、ダリは五月
ボクは五月、だから何?
R. マツト──1917──泉
ダヾは一切を否定するんだろ?
ダヾはダヾをも認めないのだ!

ただの相槌、ただの挨拶
ただの木馬、ダヾは何?
R. マツト──1917──泉
といふ事は、木馬は後ろだな?
木馬ならこの目で確かめたい!

ダヾ無意味、ただの意味
無意味といふ意味が意味
R. マツト──1917──泉
ダヾとは違ふのだよ、ダヾとは
ダヾの中で……ダヾを忘れた……

春とツアラ、ツアラトストラは、金の星──牡牛と天秤を司る


3. 祖父のコヲト

君の誕生日が私と一緒なら
特に言ふ事は無いのだがね
大体が違ふから説明の為に
こんな詩作を試行錯誤して
伝はらんもんを伝へようと

あつ、これ?手前のノヲト

草書体の己が生ひ立つ経歴
でも君にや読めないでしよ
行書体の筆が匂ひ発つ偏歴
これでもう読めるかしらん
楷書体の愛が奮ひ勃つ履歴

あつ、これ?祖父のコヲト


4. 道化・動機・放棄

自意識過剰や自惚れ屋
自信家にならなきやな
詩作は出来ませぬとな

“こんなに大きくなつたのねゑ”

散策をしながらですな
詩を認めるにネタ探し
これが見当たらぬとな

“もう今から将来が楽しみだわ”

最後の切り札手前だな
ほら俯瞰鳥瞰宜しくな
詩作が手前を創り出す

“また一歩、死に近付いたのよ”


5. 倦怠を握られた男

恋喰らつた時分
眠れないんでさあ
肌荒れて血色悪いでさあ
握られて抜かれまくつてさあ
KAMI抜けて老けて見られてさあ
もう恋人の居る訳も無いんでさあ

しかし晴れやかでせう
身も心も軽やかでせう
でしよう皆かうでせう
ノスタルヂツクでせう
勝手に懐かしむでせう
昔は平和だつたでせう

いや、それが昔の方がね……

もう恋人の居る訳も無いんでさあ
髪も抜けて老けて見られてさあ
握つては抜きまくつてさあ
肌荒れて血色悪いでさあ
眠れないんでさあ
恋喰らわぬ自分

自分以外に握られた倦怠はもう
手に負へぬ!


6. 割愛の儀

永続する恋は無い!
──悲観論ですか?
いや、楽観したとて愛の奴が!
──邪魔するんですか?

……話をまとめませう
つまりかうです
一、恋は永続しない
一、君は恋をしてゐる
一、だから君は永続しない
──それは間違つてゐます
私が恋してゐるではなし
私が恋されてゐるのです

君もさては愛の奴か?
──それはわかりません!


7. 非愛玩動物

柴犬が好きなのね
きつね色の愛い奴
黒目がちで全く今
何考へてゐるのか
見当も付かぬ奴よ

今すれ違つたのね
飼ひ主とも私とも
誰とも違ふ方向を
誰も居ない方角を
見つめてゐた奴よ

問ひ質してみたい
何が見えたのかと
何も云はないでと
何も言はない奴よ
三角耳の賢い奴よ

三角顔の愛い奴よ
三角形の不思議よ
私の底辺と高さを
掛けた処を割つて
でも分からない!


8. 割礼の儀

一献、二極、三昧、四韻……

歴史は繰り返す、と
そんな当たり前の事を
埋没してしまつたのか?
自然、当然、当たり前にね

今に始まつた事ぢやねゑぞ
恋とか愛とか五月蝿いねゑ
今に始まつてやつちまふぞ
怠けるもんか一日足りとも

当たり前の事を何故かうも
皆して有り難がるんだ?
有り難いなら滅多にね
喜んではゆけぬ、と

五鈷、六界、七条、八重……


9. 五十歩百歩千歩万歩

食へ──
(※2)めんでゑこと、退屈なこと
言つて自ら酔つてんだから
世話無いわ
そんな異論あり

喰へ──
原始人サヰドからデヰスり
云つて己が酔つてんだから
世話無いわ
こんな反論あり

その言葉、論争自体が文明の自覚を持たないで
この言葉、論争自体が以前の立場を取らないで

九衛──
めんでゑこと、退屈なこと
語つて我ら酔つてんだから
世話無いわ
みんな持論あり

全ては歌詩と変はらんから


10. 太陽さん/\月らん/\

と或る男の告白──
私が魚介類を口にしませんのは
生ぐさゝといふ事にしといてよ
でも食べられないのは本当です

(その頃、天上では)

太陽さん/\月らん/\
異論・反論・持論も無い

太陽さん/\月らん/\
陰陽・引用・関係が無い

太陽さん/\月らん/\
詩人・微塵・関係が有る

全ては月の光と大差無いから


11. 不燃ごみ/有害ごみ

と或る男の告白──
私が魚介類を口にしませんのは
海へと帰つた時を考へての事よ
でも土に還るつもりだし嘘です

(その頃、地上では)

燃やすなら恋が良いよ
燃やせる内の恋が良い
燃えた後の煙で咽るが
燃えた後の余韻も良い

愛とか欲など燃えんもんは燃やすなや


12. 十二行詩

この詩でもつて十二編とな
もう一編は余計でせうなあ
どれくらい余計かと言ふと

あ、さうだ、今迄の十一編
現代の物理化学の見地から
検討してみてくれませんか

それで詩の一編でも出来て
芸術に値するか見てみたい
学問してみたかつた処でさ

さうかうする内に十二編目
何も語らぬまま終わりそう
こりや余計だつたかしらん


13. 呪ひの13連装カノン

人間関係を最優先としないまでも
無下にはしてこなかつた

しかしこゝに作品だとか並べると
無関心でしかなかつたと

人間関係にきつと無関心であつた
人の事を嘗めてゐたのだ

詩や随筆や小説や詞曲の小節やら
書いてゐると不満が残る

その箇所どうにかせんとゝ足掻く
書き足し継ぎ足しをする

これが人間関係の不満の箇所なら
いつそすぐに削除をする

そんな事しない方が良い気もする
作品では一切やらんから

或いはこれを正当化する為にだな
作品で断捨離をするのだ

あゝ恐い怖いと躊躇するのはだな
作品関係が最優先だから

ダブルスタンダアドの二枚舌だな
このまゝぢや最低だから

しかしこんなあけつぴろげにだな
みな吐露して作品だから

やはり人間関係より作品が大事か
痛くも痒くも無いもんな

フアツシヨン孤独だ寂しくないだ
呪はれた13番目だもんな


14. 読書の時間です

他愛の無い話をされて怒つてゐるんぢやない
他愛の無い話はむしろ好きだ
他愛の無い話の振りをして
他愛の有ろうとするから

恩師でもねゑに説教せんといてください
さもなくば講釈を垂れます
全く一編の詩にもなりやあしない
全き詩人がどうにか読ませてみせますが

全て詠ませてみせますとも


15. 詩作の時間です

むかつくことがありすぎて
詩作どころぢやあない
綺麗な言葉を冷静に選べない
綺麗事を言ひたいんぢやあない

それぢやあいつとおんなじだ
詩作どころぢやあない
神の御告げや御神託あたり
その実コピヰ&ペヱストばかり

そんなにヲリヂナルがうらめしいですか?


16. 寸劇“大言壮語”

そのまゝ大口を叩いとれ
間違つても弱音は吐くな
余計胃にむかついてくる
そこはせめて強気で居ろ
同情どうぞ/\結構だと
飲み込め/\呑み込んだ
名言で飲み込もうと悲劇
名言に呑み込まれる喜劇

どんな言葉も君よりかはでつかいのでした

脳髄や言語による大勝利
弱肉強食の断絶と転覆と
身体能力に超越的な態度
肉体は従順に劣化します
脳髄や言語による大誤算
老若男女の断絶と転覆と
自然摂理に超越的な態度
精神は汲々に烈火します

どんな言語も君よりかはちつさいのでした


17. レトリツク游泳法

海だ愛だ
いや溺れてみたかつた
でもそうすつと
海だ愛だ
分からんくなる

音楽だ文学だ
分からんくなつた試しがあるか?
まだ溺れてないんか?
すごく浅いんか?
アサヰンされてないんか?

そのコヲド進行
──潮の満ち引き
この叙述トリツク
──恋の駆け引き
黙つて泳がせてください

“君の実家の方は魚の旨い処ぢやないか?
しかし食へないなんて勿体無い!”


18. レトリツクU.F.O.

焼きそばをよく食べては太つてしまつた詩人
焼きそばで太つてしまった詩人はよく食べた
焼きそばの詩人はよく食べて太つてしまつた

“悪いのは私ですか焼きそばですか?
しかし食べないなんて勿体無い!”


19. 文字の羅列の錯覚

こゝまで聴いてくれてどうも有り難う
さぞ人の境涯といふものに想ひを巡らせた事でせう

詩人気取りが思ひ馳せる訳ねゑだらう
単なる文字の羅列の錯覚ぢやねゑか

さういふ声もあるかと思ひます
しかし一つ本当があるとするなら

たとひそれが文字の羅列の錯覚だつたとしても
錯覚させるに想ひが必須なんであります

どうやつても境涯がいるのです


20. 666

あの象徴詩ときたら
何一つ分からねゑのに
何もかも囚へようとする
呪ひつてさういふもんだな
そしてほら見て御覧なさいな
あの肖像画の闇が染み付いた顔

いや写真
いやらしい
棒とレヱルの
観念連合用ゐて
モチヰフ異化作用
高速上下前後運動す

ボヲドレヱル
ボヲドレヱル
ボヲドレヱル
ボヲドレヱル
ボヲドレヱル
ボヲドレヱル


21. 北陸道にて

コブウヽン
コブウヽン
コブウヽン

爆音にせんと逝けぬカタルシス
語らぬで死すよりカタルシス
1969年は何も無い年だつた

“ヰギイは3度、飛び込みました”
“ピヰナツバタアを塗りたくつてゐます”
“ヰギイが、また、消えました”

デトロヰトの一風景を
何故に懐かしく思ふ
1989年は何も……

“ソニツクブルウ、見せてやれ”
“ガラスのミツシヨンと揶揄された”
“アクセル、ベタ踏み、6速へ”

フシユンツ
フシユンツ
フシユンツ


22. 404

小松から馬込文士村
馬込文士村から高円寺
高円寺からまた小松

一向に辿り着けないぞ
ミシガン州まで飛行機だ
旅客機、この胸目掛け

脳内妄想まで飛んでゆけ
ピヰチネクタア一口飲んで
幼少期まで帰つて来いよ

ゴクリ/\頭に投影される
映像は幼稚園の頃と桃の香り
目の前の君が何と云つても

僕の言葉しか響かない届かない


23. 雌雄詩曲

一度やつちまへば自分のもん
自身のもんになつた気がして
悲喜交々の胸騒ぎはおさまる
憧れた習慣を眺めてゐられる
しかし哀しいかな、誰の仕業
それ何処まで行つても君の詩

真面目なもんで
どんな些細な事も
大事にしては考へた

何度やつても誰のもんでなし
他人のもんになつた気がする
悲喜交々の胸騒ぎはたえない
慣習に憧れて眺めてゐられぬ
しかし嬉しいかな、私の仕業
これ何処まで行つても私の曲

不真面目なので
どんな重大事をも
茶飯事と受け流した


24. 偉大はかくも卑小なり

神様がどれだけ偉大かを語るに
仏様はさうですかとただ頷いた

偉大いふものは卑小に見えるに
偉大より偉いのは寛大と思つた

人様がどれだけ偉大かを語るに
貴方様は卑小で居れば良かつた

誰かを食つて大きくなつたもの
丁度いま喰はれては小さくなる


25. 青年の特権

煙草吹かすばかりで
何も言はぬ女
青年ハンスとう/\気付かず
踏み切れず結ばれず
魔の山

縫物織り込むばかりで
何も云はぬ女
青年フヱリツクスとう/\気付かず
踏み切れず結ばれず
谷間の百合

暗黙の了解は婦人方の前提
言はぬで云ふでしかし
青年ノリヒロとう/\気付いて
踏み切つたが結ばれたが
山堕ちては谷間擁く

そのまゝ青いまゝ
悶えて居ろ
否が応
じき色褪せる
分る、解る、判る


26. 壮年の特権

中世つて中途半端だなと思うだらう
現代の方が徹底的で容赦ないと思う

原始から徹底してあゝ為つた時代を
原始から徹底してかう成つた時代と

山あり谷ありのどちらがどつちだろ
中世の方が山で現代の方が谷だらう

中世は地位だ名誉だ此処に極まれり
現代の方が原始に帰る中途半端だろ

身も蓋も無い性欲だらう


27. 老年の特権

多様性、多元論
多角形、多面体
多義的、多細胞

嘘嘘嘘嘘、単細胞
日本を出たら日本の良さが分かり、年を重ねたら年の……
単に好きだ、純に嫌ひだ

閑かにせい、話になりまへん
故きを温ねて新しきを知れば、以つて師と……
嘘嘘嘘嘘、単細胞

幼年の特権を取り戻せ!


28. 詩人の特権

文武両道、完璧過ぎて
魅力の無いのが人生の下手

欠陥人生、偏り過ぎて
魅了されるのが生活の下手

人生の上手は、文武に欺かれるな
生活の上手は、人生に騙されるな

もう悪い事は言はない
セツクスに迷はされるな
ドラツグに惑はされるな
ロツクンロヲルに踊らされるな

もう詞しか云はない
夢は無限大!!
何だこの嘘くさゝ
有限が何言つてんだ?

私は常に嘘を言ふのだ
この文言も嘘に含まれる
さもなくば事実も云はれぬ
これだけが真実であるとして


29. 対煩悩五鈷

用も無いのに人形を買つた
英国の近衛兵の
赤いナポレヲン
そも/\人形の用つて何だ

洋服の、冷蔵庫の、鍵穴の
必要の不可欠の
要請の不可逆の
無えのが有り得ぬつて事は

んなもの忘れ得るつて訳だ
詩集は白い紙の
初恋は黒い髪の
トラウマ忘れ得ぬつて訳だ

どちらかだけぢや不満です
赤いナポレヲン
洋服の、冷蔵庫
どちらもあるから矛盾です

んなもの行き難い真理です
詩集は白い紙の
初恋は黒い髪の
トラウマ生き難い心理です

情け無い──君が居ないと世界を帯ぶれない


30. 日々是一献

君はまるでワアグナアだな
偉大な音楽家の方ぢやなくて
フアウスト博士の助手の方のだ

人生の悩みは無さゝうだな
研究の悩みは沢山ある様だが
人間をそこから眺めて居なさい

つひに人間を創り上げたか
君たつた一人で完成させたか
ただし再び独りになるだらうな

試験管ベビヰも自我を持つ
人間界を求めてガラスを割る
君に似て彼もまた独り身となる

プラスもマヰナスも無いさ
イコヲルにしたいんだらうな
でも君は1を倒した罫線記号だ

有り難う──君が居ないと世界が締まらない


31. 梯川から来た男

ヰントロはみな“ヲギヤア”ですか
“ヲンギヤア”で良いんですか、君
さもなくば言葉を覚えてください

あんまり真面目なもんで
不真面目に怯えてみせる
あんまり真面目すぎたら
不真面目なんぢやないか

恥ずかしい処を見てください
実は何も恥ずかしくありません

不真面目に違ひないだろ
あんなに真面目な顔して
不真面目で居られるのは
あんなに真面目な人だけ

立派な部分をご覧に入れてください
実は立派の一欠片もありやしません

このバアスは一体なん/\ですか
言ふ事を云はれた事と打ち消して
リバアスですか?いやリバアです

この川を何回見たろうか
運が良くても百回くらい
たつた百回たつた百年
──哀しいか
ゆうに百年ゆうに百回
──楽しいか

髪髪髪、抜けてゆくばかりの精魂
そいぢやあ/\ドス黒い物の哀れ
また来いや、待つとるぞ

あの川を何回渡ろうか
運が良くて一回くらい
たつた一回たつた百年
──怒れるか
ゆうに百年ゆうに一回
──喜べるか

神神神、惚けてゆくばかりの性格
(※3)じよんなあ/\霊験あらたかなれ
また来いや、待つとるぞ

自づから安宅の浜辺に漂着しけり
死んだらどうもかうも無いものを
生きる方がどうもかうも成らずで
生きながら死ぬのも有りだらうと
死よりかどんな事も為るだらうと
自づから安宅の海の藻屑と生りて

紙紙紙、白けてゆくばかりの生活
やつたあ/\また新たに書き殴れ
また来いや、待つとるぞ

KAMIKAMIKAMIKAMIKAMIKAMI……


32. ゴヲストノオト

こゝからは蛇足です
のんびりと過ごす余生です
さういふ生き物になりました
てく/\と歩く滑稽な
巳年の己がやつてくる

こゝからは日曜です
何にも予定の無い日々です
毎日が日曜みたいなものです
段落だ行間だ知るかよ
知るかよと知つてゐる

歓喜に終はる傑作だ
悲哀に沈む名詩編だ
だから一つ前辺りで
終はらせておけばよ

しかしふざけたくて
さうだ終はらなくて
人生とか生活の奴等
奴等ふざけてゐるよ

こゝからは休日です
だらりんと過ごす死後です
さういふ憑き物になりました
ふら/\と漂う笑止な
禁忌の己がやつてくる

こゝからは蛇足です
何処にも前例の無い蛇です
毎日が散歩みたいなものです
頭韻だ脚韻だ知るかよ
知るかよを知つてゐる


33. 異端者の可笑しみ

悲劇の中でこれは悲劇だと叫ぶ
──これが悲劇になり得ますか
──それは喜劇になり得そうだ
悲劇の中で悲劇への言及を禁ず

喜劇もまた然り喜劇だと叫ぶな
──そんな笑ひで笑ひを獲るな
──こんな笑ひで笑ひを得るな
喜劇における汎ゆる喜劇も禁句

三島もニヰチヱも耽溺してゐた
──希臘の知をいま一つ掴めぬ
──希臘の地をもう一つ踏めぬ
ヘルデルリンでも朗読しなされ

ヒユペヱリヲンでも読みなされ
──新宿の紀伊國屋にあつたよ
──万引きしたら横尾忠則だよ
岩波から復刊されてゐたんだよ

河出もバタイユを復刊なさいよ
──丸の内の丸善にもあつたよ
──檸檬爆弾の梶井は京都だよ
空の青みが古本屋だと高いんよ

悲劇の中でこれは喜劇だと叫ぶ
──私の悲惨な毎日は愉快です
──私はさう思ひませんが神は
喜劇の中で悲劇への言及を禁ず

角川も早くバタイユを
生田訳のを!


34. 凹凸フアツク完璧

希望ばかりか絶望まで分捕られた
皆が思ひ付く様なものは皆
呑み明かした朝の倦怠や
六畳一間の寂寞や孤独
痴情のもつれや自殺未遂
命の全て漏れ無く在り来り
私なぞが演らなくとも他の誰かが

六畳一間の換気や歓喜
呑み明かさぬで眠れぬぞ
詩作における早朝の勝利や
昼過ぎては夕方が二度目の朝焼け
誰にも共有されぬ時間軸や
未だ形而下に見られぬぞ
私なぞの謎の偉業の業

独りでにずつぷりと嵌る人間の業
お天道さまが見てゐる

ほら眼に見えるもの
これにて方針立つ
何もかも勃つ

「お前やつとか」
「嗚呼あなた遂にやりましたね」
「やりましたよ」

上から声する
神なんかぢやない
ほら目に視えるもの

君だけが目撃してゐる
皆居なくなつちまつたが君だけは

完璧完璧完璧完璧


35. コンクルウヂヨン

山羊だ山羊、山羊の歌から、在りし日の歌

行き過ぎた保守は革新と同じく
──否
行き過ぎた革新も保守に違ひなく
──否
行き過ぎた保守の革新は保守に等しく
──三たび、否

“ダヾヰスト憲宏の詩”


(※1)てんぽに:桁外れに、大袈裟に
にんがし:賑わしい、騒がしい
(※2)めんでゑ:格好悪い、みっともない
(※3)じよんな:唐突な、奇妙な


~~~~~~



 原稿用紙四十五枚程を三日で一気に書き上げたので、止め処無き意識の濁流に逆上(のぼ)せてしまい、推敲時も何が良いんだか悪いんだか判らなくなる位だったが、今は打ち上げられた彼岸にて、呑気に足組み横になり、後書き気分でこれ叙(じょ)する、世界で一番腑抜けになった。取り急ぎ三十五編、齢(とし)の数だけ詠(えい)じてやった。



 そうだ常に念頭にある、手前のルーツが頭の片隅に。父方の祖父、祖母、母方の祖父、祖母、更にさかのぼって上の方の人、人、人。いつまでも大切に、忘れないでいたい……ダダイズムと対極の保守的な考えかもしれぬが、ダダを破綻させるのがまたダダであり、これぞダダの最たるものと考えるが故、今度ダダイストを自称した。



 全ては詩集を編(あ)む為の、全き詞曲を纂(あつ)める為に──破綻破綻破綻。私は読みますとも聴きますとも、私に詠ませますとも訊かせますとも──ダダダダダダ。私は/私に、主語から目的語に成り果てた──破綻破綻破綻。ドグラ/マグラ、単なるドグマぢゃ──ダダダダダダ。



 ブルトンが宣言した百年後に、憲宏が先言(せんげん)した百年前に。憲宏が残したノートの百年前に、中也が遺したノートの百年後に。



 “習字ぢゃない書道だ”、“真っ直ぐに書け、ド真っ直ぐだ”とは高校の恩師(書道の先生)より、サムネの題字の為、十数年振りに書道をしたが、誰にも縛られない書道は──しかし何度も上記、恩師の言葉が脳裏に去来した──家で独り創作の為の書道は、あっという間の二時間で、それはそれは心底楽しかった……年の瀬に新しい趣味が一つ増えたかもしれない。


2024年12月15日日曜日

深緑(93歳の谷川老人に感化された詩)

おはよう。先日、岩波や新潮のツイートで、谷川俊太郎の訃報(ふほう)を知った。次いで、紀伊國屋や丸善の“追悼フェアやります”というツイートが流れてきた。今はもう地上波を一切観ていないので、テレビでもこの逝去(せいきょ)が散々報じられたのかどうか、恐らく散々報じられたのだろうと思う──それだけの人だ。

 私は特段、谷川俊太郎に影響を受けているものではない。謂(い)わば影響を受けていないという、それだけの影響を受けているものである。それは例えばミスチルとかB'zとか、この時代・この国に生を享(う)けたものの宿命である。踏み絵を踏むか踏まぬか、それだけの運命である。谷川俊太郎の詩は私の趣味ではないが、否応(いやおう)無しに知っている。前述の通り時代か国か、義務教育のせいで思い知らされている。だから私の趣味ではないが、ここにその思いの丈を述べたいと思う──

 良くも悪くも私は影響されやすい質(たち)で、この前書きからして既に谷川俊太郎っぽい、ならば冒頭の“影響を受けていない”という主張は嘘になる。それでも“影響を受けていない”と言い張る、やはりそれだけの影響というのが実(じつ)の処である、何故なら頽廃(たいはい)・耽美(たんび)は彼を拒む──しかし全く無関係では居られないのが実情だ。


「深緑」
by Nori MBBM

第一部・確定日記(確と定むる詩編)

令和6年4月11日(木)、上巳の節供

深緑
淡い深緑
新しい深い緑
繰り返す事の深緑
言の葉の入り組む深緑


令和6年4月16日(火)、春土用入

意味があって
言葉があって
その先に詩があって
何て今は吹聴されている

みな逆だった
その逆だった
まず先に詩があって
耳から頭吹聴されている

言葉があって
意味があって
詩は必要なくなって
いつしか立場は逆転した

役に立たねえ
飯も喰えねえ
詩人風情が偉そうに
詩とか云って気取ってら

みな逆だった
その逆だった
覚えた順に思い出せ
君だって元は詩人だった

役に立たねえ
飯も喰えねえ
赤ん坊の頃忘れたぜ
社会人だって気取ってら


令和6年5月1日(水)、八十八夜

身体が万全だった時など
数える程しかなかった
精神が万全だった時は?
それより多かったかも

これが逆の人も大勢居る
むしろその方が多数派
彼の方が少数派だったに
昔は谷川俊太郎の方が

見事に入れ替わりました
日本一有名な詩人から
現代は現代詩その一手に
掌返しをされちゃった

夏も近付く八十八回の夜
そして八十九回目から
精神は身体的その一手に
掌返しを決めちゃった


令和6年6月10日(月)、入梅

物理的には唯一無二なんです
その時点で希望ですし
その時点で絶望ですし

過去・現在・未来は無いです
その時点は唯一ですし
その時点も無二ですし

人類は黴胞子か黴の奉仕です
その時点で希望ですし
その時点で絶望ですし

空間も肉体も只一つなんです
その時点は想像ですし
その時点も創造ですし

谷川さんも私も一人なんです
その時点で希望ですし
その時点で絶望ですし


令和6年6月10日(月)、端午の節供

生活が地球の歴史を遮断する
遮蔽物となり見えなくする
遅刻するな、駅まで走れ、と
鍵閉めたか、引き返せ、と

人生が宇宙の歴史を遮断する
遮蔽物となり見えなくする
あの先公と水泳、跳び箱、と
月一の全体会議、面談、と

生活と人生と歴史を確認する
地球と宇宙と見え易くする
日本史も世界史も自分で学ぶ
契約も条約も独りでに結ぶ

人生と宇宙と生活と地球とを
見ざる人間を見え易くする
言わざる大人の恋して鯉昇る
聞かざる子供の兜で着飾る


令和6年7月1日(月)、半夏生

生活は間断なく
人生は間断なく

私をかろうじて繋げる
どんな身勝手にだって
今に記憶喪失したって
だから他の奴にだって
繋がなくって良いって
お構いなしだな君って
僕出て行ってやるって
地球と宇宙を聢と見て
それでも死ぬ迄はって
人をかろうじて繋げる

人生に間断なく
生活に間断なく


令和6年7月19日(金)、夏土用入

詩集の為に詩を書いてみましょう
さあ詩人を名乗ってみましょう

ちょっと何言ってるか分からない
それってあなたの感想ですよね

ちょっと何言ってるか分からせる
それってあなたの妄想ですから

詩集の一言一句に云われましょう
さあ詩人が全てに答えましょう

それぢゃあ木々って何で生えたの
あの枝葉の形状って何が何なの

それぢゃあMBBM結成しましょう
あの結成の日付って何が何なの

詩集の一語一語の形を見ましょう
さあ詩人は何故愛でたでしょう


令和6年8月10日(土)、七夕の節供

人間の三大欲求に疲れたら
自然の無用無欲に浸かれよう
優しいのね、あなた、優しいの

手前を最低な人間と思う時がある
彦星が織姫を犯す穢らわしいものと
明日まで生き延ばすに必要なもの

険しいのね、あなた、険しいの
自然の無用無欲に憑かれたら
人間の三大欲求に就かれよ


令和6年8月31日(土)、二百十日

知っている
覚えている
名前もその形も
山道

知っている
覚えていない
名前もその形も
谷川

知覚は当てになりません
知覚は当てになりません

知らない
覚えている
名前もその形も
歴史

知らない
覚えていない
名前もその形も
明日

近くは果てになりません
近くは果てになりません


令和6年9月10日(火)、二百二十日

着物の糸
ギターの弦
君だけの怒り
恋人との繋がり
こんなものが人を

きゃあきゃあと
ぎゃあぎゃあと
うぇんうぇんと

云わせるのかよ

着物の糸
ギターの弦
君だけの怒り
恋人との繋がり
そのまま見せても

きゃあきゃあと
ぎゃあぎゃあと
うぇんうぇんと

言わぬであろう

着物の糸
ギターの弦
君だけの怒り
恋人との繋がり
切れただけなのに

きゃあきゃあと
ぎゃあぎゃあと
うぇんうぇんと

泣いてくれるな


令和6年9月17日(火)、中秋

ジミヘンに弾かれて切れた弦
燃やされて灰になった弦

バーナード・バトラーの弦
妖しく喘いで鳴いた弦

張られたばかり未使用弦
まだ歌う事知らぬ弦

変な押さえ方された弦
和音も知らぬ六弦

ドロップDで張る弦
ゆるり駄弁る弦

何をか云わんや弦
己がギター弦

中秋の名月の弦
月の半分こ弦

月の上弦
下弦


令和6年9月19日(木)、彼岸入

だからこの声帯で
君を笑わせたんですね

しかしこの声帯は
何も特別ぢゃないです

通り道なんです、ただの
ただ感情や言葉はいつも
愉快だと褒めてくれます

この声帯その声帯
見分けが付きますかね

あの声帯その声帯
赤いスジ肉の二本の柱

一本道にて佇む、ただの
ただいつか解剖医にこう
平凡だと切り裂かれます


令和6年9月21日(土)、社日

私の想像に立ち入ってくる
彼の詩が頭を過る
邪魔しないで欲しいと思う程に

私は五月に生まれたのに
季節外れて
真冬の風景を懐かしむ

言葉も知らない物語
どうやって語ろう
彼に頼りなよ

彼の創造に立ち入ってゆく
私の事を思い出す
邪魔しないで欲しいと想う位に

彼は十二月に生まれたに
季節外れで
春の光景を偲んでいる

物語も知らない言葉
どうやって言おう
私に頼りなよ


令和6年9月22日(日)、秋の彼岸

生きている間は
この心身が抵抗
亡くなった後は
この詩編が抵抗

定義付けされて
無抵抗にされて
無問題にされて
承知致しました

生きている間は
この詩編が抵抗
亡くなった後も
この心身の抵抗

定義付けされて
愚者達によって
賢者達によって
承知致せぬまま


令和6年9月25日(水)、彼岸の果て

二つの話に尾鰭が付いて
気付きが問題提起する
より考える人となる
闊達な議論をする
より良い答えを
異論反論する
何が哲学だ
何が詩だ
文字数
不足

気付きは何も提起しない
問題も答えも知らない
考えない方が良いと
討論など以ての外
愚者がやる事よ
賢者がやる事
比べる事よ
哲学者は
詩人は
野蛮


令和6年10月11日(金)、重陽の節供

地球は人の物ではないのだよ
ぢゃあ自然の物なのかえ

自然も自然で不自然みたいに
他の自然に追いやられる

人間と人間も自然と不自然な
特別などと思い上がるな

お前はちっぽけな大海原だよ
俺はちっぽけな大樹だよ

明日消えるやもしれぬ運命だ
隕石で宇宙で皆で自然だ

誰の物なのさ教えておくれよ
そう思うのが自然の証だ


令和6年10月20日(日)、秋土用入

伏線を張ったり回収したり
文字数や段落を調整したり
几帳面ねえ神経質ねえ貴方
嫌味みたいだけれど凄いわ

何故凄いと思うのだろうか
これは生理反応と条件反射
地球が回るのと海、雨、川
その循環進行と輪廻の信仰

伏線を張ったり回収したり
文字数や段落を調整したり
几帳面ねえ神経質ねえ宇宙
地球みたいだけれど凄いわ


第二部・予定日記(予め定めし詩編)

令和7年1月17日(金)、冬土用入

お気に入りの着物や洋服を
座右の書や積ん読の書物を
ふと手にすればカビていて
何だ君もかとガッカリする

気になっていた女や恋人に
しょうもないバンドマンに
唾付けられてはポイされて
あの頃の僕とガッカリする

カビは知らず知らずの内に
健気に今日もどこかを這う
その醜態が誰かさんに似て
人類は人間にガッカリする


令和7年1月29日(水)、旧正月

用意、ドン、始め
かけっこみたいな
それは引き千切る

ゴールテープの様
あの仕切り千切る
未来の約束と契る

綺麗な始まりなど
建前だけで本音は
過去は綺麗に切る

変わらぬ年の始め
変わらぬ年の諦め
いつかバンドをば

いつかMBBMをば
終わらせた日には
終わらぬ詩を始め

大切な想いもキル
超オーヴァーキル
強制終了昨年師走

走れ一位あるのみ
一日だけが大切だ
用意、ドン、始め


令和7年2月2日(日)、節分

何も取り柄が無いとして
そいつは死んでいるはず
生きてそれは出来ぬはず
鬼は外、福は内、鬼は外

何も悩みが無いとしてだ
そいつは死んでいるはず
生きてそれは出来ぬはず
福は内、鬼は外、福は内

どう足掻いて抵抗しても
何かしらの才能があると
生きてそれが出来ぬなら
死んでしまって思い知れ

思い知れない死後なんて
反論するだけ元気な才能
異論を唱える野暮なオニ
生きている内に思い知れ

息している内に思い知れ
粋は野暮でなし想い知れ
イキってみろよ思い知れ
逝き過ぎるなよ想い知れ


令和7年2月4日(火)、人日の節供

夢や幽霊は悪戯に
人や品性を惑わす

もう邪魔しないでよ
そういう人間は何に
何に喜びを見出すか
何故涙を流したいか
取り返しの付かぬ事
結婚、出産、大成功
離婚、死別、大失態
そんな単純なもんか
取り返し付けてやる
もう邪魔しないでよ

人の品性を惑わす
夢の幽霊は悪戯に


令和7年3月17日(月)、彼岸入

地獄は温まるねえ

仕合わせな時代に
不仕合わせを知る
衣食住の心配なし
人新世の懸念あり

地球温暖化でなし
環境問題やむなし
肥満児の退屈だし
人質解放の訳アリ

煉獄は丁度良いね

地球温暖化でなし
環境問題やむなし
栄養失調気味だし
囚人生活の訳アリ

不仕合わせな時に
仕合わせ思い知る
衣食住の懸念あり
人新世の心配なし

天国は冷え込むね


令和7年3月20日(木)、社日

プラモデルを手に取り
誤って壊してしまった
それ制作した長兄から
物を作るのは大変だが
物を壊すのは容易いと

そう叱られた事がある
これは結構真理であり
末弟の心理に巣食った
善悪の理非すら救った
だから僕は殺人しない

恋愛する事はするけど
何か作るのはするけど
何か壊すのは御免だと
人生生活、地球宇宙と
プラモデルを手に取り


令和7年3月20日(木)、彼岸

今は住む人の居ない母の実家の二階に
兄の作ったプラモデル達が展示されている

そこには母が少女だった時の部屋とか
母の父である祖父の蔵書が沢山眠っている

窓のサッシのレールの溝には蜂が一匹
何に蝕まれるでもなく疾うに亡骸も乾いて

きっとこの蜂が蜂と飛び回っていた頃
祖母が洗濯物を上げに来たり取りに来たり

一式陸攻、B29、F4、A10手に取ったり
眺めたりする人達が何をか語った事だろう

久し振りに上がった二階は不思議にも
母の部屋も祖父の本も兄達のプラモも何も

変わらぬままそこにあって当時のまま
僕の作ったプラモデルも一緒に置いてある

動かぬそれを見ていたら声が聞こえた
プラモの、プラモを囲む人達の語らう声が


令和7年3月23日(日)、彼岸の果て

テレビを観なくなった
ネットでも散見されるフレーズ
ネットも見なくなった
己が周りでも聞かれるフレーズ

ぢゃ何を見聞きして?
人によるだろうが己がフレーズ
己がフレーズは同時代
同時代性を避ける己がフレーズ

今の流行りよりこっち
だなんて格好つけないフレーズ
無闇に群れたくはない
ニュース見出し撲滅のフレーズ

報道の何が腹立つって
皆こじつけようとするフレーズ
無関係で居られるか?
現にそうして居るのだフレーズ

これが見聞したかった
みな関係しようとするフレーズ
朗報悲報速報やるよ?
そのくせ情報だけ空のフレーズ

街から目を離すと太陽
月ゆったり何時だって触れ得ず
触れ回るのは止めなよ
言葉だって本来は常に触れ得ず

五七五だ五七五七七だ
ソネットだ14行詩だ
そういうものを避けて我が形式は生まれた

しかし俺は俺の形式すら拒む
もう文字だ段落だ揃えようなんてうんざりだ
好きにやらせろ、そうだ

律儀に生え揃った草花など
自然が不自然の悲しさ、可笑しさ、憤ろしさ
人工美の限界なんだ

グラムロックは限界か?
自然回帰LOVE&PEACE戦争反対ヒッピーのカウンターぢゃなかったか?
フリーセックスしか出来なかった無脳なヒッピーの?

嗚呼、グラムロックは人工美だ!

だからよ、人工美が人工美にやられるな
俺は俺の形式すら拒む、そう云った
好きにやらせろ、そうだ

とびきりの頽廃芸術

我が極彩色を誇りに思う
幾ら誇りに思った処で
それは無色や潔白を恐れる
強がりは臆病の証左
或いは、悪戯に色々を塗りたくる
幼児の幼稚な混沌、混乱
未分化の知性

未分化の人性
そのぐちゃぐちゃな色
色々を混ぜた汚いカラー
汚らわしいから
穢らわしいから黒
識別できない黒
この極彩色が黒?
まあそれもよかろう
私から言わせれば
白々しい君の意見だ
そこに誇りを持っているんだろ
愛と平和で戦争をなくせ
この黒が塗り潰す前に
闇夜と呑まれる前に

悟りの境地の謎解きより
一休さんの謎々より
そんな白けた答えより
白々しい真理より
真っ黒で訳分かんねえ方が
世界だ宇宙だ

もっと白けてみろ
白けさせてみろ
平和
その何倍もめちゃくちゃに
フリーセックス
塗りたくる色
ヒッピー
お前も黒だ
お前が黒だ
人間だ人類だ

詩は詩の無意味性のみに属す
気負いなく力なく然り気なく云ってみろ
嗚呼、詩は詩の無意味性のみに属す
気負いまくって力みまくって下心ありありで言ってやる
徹底的にやってやる

君は別に特別ぢゃないから
(と云う訳で特別を頂きます)
お前だけが特別な訳ぢゃないから
(と言う訳で特別を奪い返します)
徹底的に戦ってやる

白々しい
愛と平和
戦争反対
という戦
自作自演

白々しく
白けた髪
白けた神
白けた紙
自作自演

君、幼稚な純粋性を謳うよに
成熟の不粋をぶちまける

粋で居られぬ不本意を
不粋が自爆の願望で

夜勤明けで読んだ谷川俊太郎の詩が全然良くない。偽善と耳に響く。彼からしたら余計なお世話だ、関わってくれるなって。

先日、寝る前に読んだ谷川俊太郎の詩は、良いな、と思いかけていた処だったに。彼からしたら余計なお世話だ、関わってくれるなって。

谷川俊太郎に原因があったとして、仮にその詩をまるまる剽窃し、手前の名義で発表したって、やはり純粋に詩の一編のみが悪い、とは断言できぬほど、詩集の詩の一つ一つから彼が、彼の態度がそのまま言葉の態度となって、そこに文体として居座っている、無理な話なんだ。彼からしたら余計なお世話だ、関わってくれるなって。

平成日本を生きた身にゃ、無理な話なんだ。ちなみに、朕、という作品が気に食わなかった。あれは谷川俊太郎でなし、作品中の皇帝が書いた、いや実は無名の詩人が書いた、そういう体のものだろう、そのまま谷川俊太郎と取るのはどうか、と知人の詩人(無名)、まさにそこなんだよ、気に食わない処は。無名の詩人からしたら余計なお世話だ、関わってくれるなって。

グラムロックが冗長なアート気取りの音楽を断罪した様に、彼の詩から感ぜられるプログレの様な、飄々とした白々しい態度に、その生温いスノッブに苛立ちを抑えられない、と宣うと知人の詩人(無名)が、そんなに苛付く事か?僕はそもそも興味も湧かないからな、他人いうものに、まさにそこなんだよ、気に食わない処は。気付け、君も彼に違えねえと。無名の詩人からしたら余計なお世話だ、関わってくれるなって。

令和日本を生きる身にゃ、無理な話なんだ
グラムロックがパンクロックとなった様にさ
ダダイズムがシュールレアリズムとなった様に
みな変わり果てちまうんだ
だがしかし俺だけは!!

手前の詩を誰にも
何にも捧げない
それがあらゆるものに捧げる詩と
その前に一人ずつ
一つずつに捧げたい
これはあらゆるものに捧げぬ詩

あらゆるものに捧げぬ詩を
あらゆるものへと捧げる
あらゆるものに捧げる詩について
それしか方法を知らない
それしか方法を知りたくない

裏技は要らない
逆説も仮説も必要ない
突飛な理論に指摘されても
至極正論を云われても
そんな奴に捧げない
便利な奴に便利な詩など捧げない
不便な詩人が不便な詩のみを捧げ続ける

僕が子供の頃
ラジオ体操へと毎日通ったのは
独り善がりだったのか
言葉に欺かれただけだったか

だってあれは8月の
真夏の朝の下り坂
家の前の下り坂を駆け抜けて行ったから

そう
嘘かよ
そう、嘘
うそ、そう
何だ、そうか
何だ、うそかよ
そう、だったのか
自然回帰というのは
自然に還るというのは
空の青に雲散霧消するは
名も無き葉になるのは
生死も分からぬのは
言葉に紛れるのは
真に生きるのは
死ぬという事
死後の準備
死の準備
讃美歌
美化


令和7年3月31日(月)、上巳の節供

言の葉の入り組む深緑
繰り返す事の深緑
新しい深い緑
淡い深緑
深緑


~~~~~~


 昨年はたまたま谷川俊太郎の処女詩集「二十億光年の孤独」を古本屋で何となし買って読んで、すぐに手前で詩作してここに掲載する(2023/5/35/18)という軽薄な事をしたが、その時は勿論今年逝ってしまうなんて知る由も無かった。谷川俊太郎を今まで自発的に読もうと思った事など一度も無かったのに、何てタイミングだ、こんな事をわざわざ書かせるなんて、タイミングが悪かったんだ。しかし谷川老人はそれを、タイミングが良かったんだ、と云う気がしてならない。また同様に彼が、何てタイミングだ、と嘆く時は、良いタイミングに違いない。

 そういう関係に陥(おちい)っている。私らしくもないのが、全く私らしいが、それをいつも彼は知らせてくれる──それだけの人だ。

【MBBMの日めくりバーニン八重】自信を持ってグラムロックが、頽廃(たいはい)芸術が好きだと言える。グラムと頽廃が何の疑いも無しに、ロックと芸術をしないからである。その思想・命題が既に、矛盾と破綻をしている。何食わぬ顔で成立・存続し、堂々と笑っている。堂々と笑える、が故に。ドグマッ

 今日の140字はこう詠(よ)んだ。谷川俊太郎も堂々と笑える、笑われる用意がある、という点で尊敬している。


 彼が生きていれば、今日で93歳だったらしい。今日(こんにち)在るはずの人に、勝手にスピって感化されただけの朝──これを悼辞(とうじ)に代えさせて頂きます。合掌。


2024年11月28日木曜日

報恩講拙記



「歎異抄和讃(たんにせうわさん)」
作詞・作曲:Nori MBBM

序)
金の無い人に金を渡さず
字の読めぬ人に字を書かず
声が届かぬとも声に出すだけ
歌に乗せて詩乗せるだけ

一)
南無阿弥陀仏
南無阿弥陀仏
易行(いぎやう)念仏
只の念仏
其の善行は取るに足らぬ
此の悪行も取るに足らぬ

二)
天国と地獄に大差無し
奈良やら比叡山程に知らぬ
釈尊、善導、法然上人
親鸞上人程知らぬ

三)
自力/\で遣つて来たから
神に好かれる訳も無く
仏に救はれる訳も無く
他力/\で遣つて来たから

四)
助けて上げるよ
解決出来ぬが
解決するなら
助けて呉れるな
南無阿弥陀仏
南無阿弥陀仏
南無阿弥陀仏
南無阿弥陀仏

五)
父さん母さん、御免なさい
親友恋人、御免なさい
薄情者、先(ま)づは薄情者に
捧げない、では居られない

六)
先生生徒、御免なさい
先輩後輩、御免なさい
上司部下師弟上下shit関係
捧げたい、では居られない

七)
南無阿弥陀仏
以上が無い
瞬間刹那的閃光だ
南無阿弥陀仏
以下も無い
循環日常的言動だ

八)
言ひたい事を言ひたいからだと
言つてゐる内は言つてゐるだけ
云ひたい事は云はされてゐると
云つてゐる内に云ひたいだけ

九)
遣りたい事が沢山有つて
是れぢや往生死ねないや
遣れない事も沢山在つて
其れぢや往生死ねるんや

十)
生き死にゝ理由が要ると
好き嫌ひに理屈が要ると
思考停止、手前で仕上がれ
脅迫観念、勝手に仕遣がれ

別序)
Amitāyus ist Amitābha
無量寿いづれいずれ無量光
南無阿弥陀仏
南無阿弥陀仏
南無阿弥陀仏
南無阿弥陀仏

十一)
理由が有るから偉いのか
理屈が在るから人間なのか
偉いと信じられるのか
人間だと仰(おほ)せられるのか

十二)
難行、易行を謗(そし)るは易し
易行、難行を受け入れ難し
易行は難行を認め難し
易行を難行と認め難し

十三)
良い行ひで善い人なのか
悪い行ひで惡い人なのか
善悪、一人で決められたか
全惡、世界は定められたか

十四)
正負の法則、辻褄合はせで
円環構造、帳尻合はせ
生の教則、肩身が狭くて
中空(ちゆうくう)構造、肩透かし

十五)
悟りの一言で済ますな
即身成仏(そくしんじやうぶつ)、四文字で
六根清浄(ろつこんしやうじやう)、四文字で
効率的に取り澄ますな

十六)
思ひ悩んでは悟れぬと
想ひ/考へ/諦め/悟つた
思考停止は哀れである
回心(ゑしん)は自然(じねん)は憐れである

十七)
行き成り浄土に逝けませぬ
浄土の辺地(へんじ)に行けませう
天国と地獄に大差無し
己が疑ひをば晴らさうぞ

十八)
金の多額で救つて御呉れ
字の長編で済まして御呉れ
此の声と詩の美辞麗リヽツ句
仏には全て御見通し

後序)
あゝ仏の為すが儘
おゝ仏の成るが侭
人生半ば──三十五歳──流罪
ダンテ・アリギヱヰリと共に



 親鸞が流罪(るざい)に処された年に。ダンテが暗い森の中に迷い込んだ歳に。芥川が自死した三十五年の齢(よわい)に。嗚呼わたくし、和讃(わさん)す。あなかしこ、あなかしこ。

 タブーとか不謹慎から入り、歴史の暗部に光を当てよう。厭々(いやいや)思い出すな、正当化せよ。いや正当化するな、相対化せよ。思い出したくもないこと、想い出(いだ)そう。知りたいが知らないもの、有り付けそう。

 へえ?テーゼ・アンチテーゼ・ジンテーゼ?弁証法?止揚(しよう)?アウフヘーベン?しよう……ヘーゲル?

 西洋哲学がニーチェに罹(かか)る度(たび)に!西田幾多郎(きたろう)が親鸞を患(わずら)う様に!我ら彼ら理解する為に!思想の病(やまい)に罹患(りかん)しよう……貞祐(ていゆう)!

 カント!フィヒテ!ハイデガー!

 ロマン主義的なドイツ観念論によれば、天地創造も己が力によるなり。フィヒテかぶれの学友に、ゲーテかぶれの我吹きて。噴飯(ふんぱん)ものの自意識過剰に、仏頂面で蔑(さげす)まされた遠き日の思い出。ただ遠くよりも遠くなりにけりで、一周廻って今まさに想い出(い)で。嘲笑された創造神(そうぞうしん)気取りの彼が、仏頂面をして今わたくしに立ち出で。神が仏の出で立ちで、“絶対自我”の何たるかを講釈す。

 そうして伝家の宝刀であるエレクトリックギターをば封印し、DTMer/打ち込み/打ち込む/打ち込んでは作り上げた己がトラック。何せ今回ヒップホップなので、今迄ヒップホップ通って来なかったもので。しかし例外が二つだけあって──フィヒテかぶれの彼が教えてくれた──十代の終わりから聴き続けているは、“ラッパ我リヤ”と“N.W.A”だけ。そんな男のヒップホップなので、一番ヒップホップなのではないかと思う。ロックから一番遠いものが、最もロックだったりする様に。ドイツを最も憎んだ男がまた、ドイツを最も愛した男だったと謂(い)える様に。

 マン。ニーチェ。ゲーテ。

 いちばん宗教を疑っていたのに、いちばん宗教を愛してしまった。うそくさい、うさんくさい。にわとり/たまご、どっちがよ!

 再三の注意・警告があり──神は死んだのだと、現に神は居ないのだと──現実・世界もう分かったよ!

 ただ人間はしぶとい、まだ生きている、こう能書きまで垂れる、その人間が生きている限り──神は生きているし、現に神は居(お)られるし──迷いは消えないものだよ!

 散々議論してきた事の正解、正体を明かしてしまえ──人が神だろうと、現に人が神ぶろうと──仏の方がしっくり来るよ!

 仏とは何か?仏とは阿弥陀(あみだ)ないしアミターユス(Amitāyus)またはアミターバ(Amitābha)つまり“光”の意(い)である。この梵語(ぼんご)はまた「無量光(むりょうこう)」と訳(やく)されたりするが、言い換えれば“限り無き光”とか“永劫(えいごう)の光”という訳(わけ)である。こんな末法(まっぽう)の世で、そんな抽象的な物言いは憚(はばか)られるか?

 ならば具体的にまた繰り返すか?タブーとか不謹慎から入り、歴史の暗部に光を当てよう。厭々思い出すな、正当化せよ。いや正当化するな、相対化せよ。思い出したくもないこと、想い出そう。知りたいが知らないもの、有り付けそう。とはいえ具体まだ分かりづらいか?

 具体どれだけ隠した処で、己が見つけてやる、手前で見つけてやる、それ阿弥陀の慈悲というもので、神は居なくとも生きてゆけるが、仏の居るが故、大乗仏教の大丈夫、大丈夫──タブー・不謹慎・歴史の暗部・心の闇──みな正当化、否、正しいとか当たりとか論外、否、それ以前の問題、三たび、否、相対化、対照する光、満遍(まんべん)無き光……具体よ、とどめだ!!

 我がバンド・MBBMの解散した平成29(2017)年1月29日(日)から数えて今日で2,861日、一日とて欠かさず試作に詩作を重ねて毎日ツイート/ツイッター/呟(つぶや)き/呟くこと2,861回、その己が140字ヂャストの最新鋭・最先端が試行錯誤の時代錯誤の詩の2,861編、未完の、終わらない詩──アンフィニッシュド・バラッズ──本日分ここに転載す。

【MBBMの日めくりバーニン八重】家柄、職業、性別、容姿で振り分け、人間、関係、立場、振舞で割り当て、地獄の門、煉獄(れんごく)の門、天国の門へと続く道それぞれ、岐路(きろ)に立ち、三叉路(さんさろ)に迷い、何処に行くものかと、何処迄も続く日々つれづれ、四辻・十字路の真ん中で。ドグマッ


 又ぞろ、ダンテ・ダッタ・ナンテ!!惑(まど)わされるのと迷うのは、違うのだぜ?例えば、オーディエンスとプレイヤー程に──親鸞もダンテも標準語で書かず、地方の、土着の、ウチらの地元の言葉で書いた。こうして世俗へと放り込まれたのであるから、せいぜいが光を見つけるゲームでも楽しめ──めいめいが好きな暗号、隠語、言語、殺生なワードとその頭蓋骨を駆使して。嗚呼わたくしなりの、報恩講(ほうおんこう)で御座居ます。あなかしこ、あなかしこ。


2024年11月27日水曜日

鋼鉄綺譚

人には言えぬ趣味があって、それは“天国の階段”を上(のぼ)る事であった。お茶の水駅前の二階へと続く、あれだよ。細長い、薄暗い、今は亡き、あれだ。

 Xの“アイル・キル・ユー”の歌メロフル無視絶叫カバーが素晴らし過ぎる──“過ぎる”という何にでも濫用(らんよう)されるこの形容はエクストリームメタルにこそ相応(ふさわ)しい──フランスの“アノレクシア・ネルヴォサ”、女児をハンマーで殴り付けてブタ箱に入れられた精神分裂症のボーカルがコウメ太夫より先にコウメ太夫の様に絶叫するスウェーデンの“サイレンサー”、速すぎて遅く・重すぎて軽く・正確無比すぎて滅茶苦茶に聴こえる手数(てかず)/音数(おとかず)が千手観音(せんじゅかんのん)なカナダの“クリプトプシー”、数十秒ないし十数秒のナンバーも繰り出しながらローファイな轟音の嵐を矢継ぎ早に容赦無く叩き付けてくるアメリカの“ブルータル・トゥルース”、我が十代の重大アンセムである名盤1st「エクリプティカ(1999)」収録の5曲目“キングダム・フォー・ア・ハート”を残してくれただけでも有り難うなフィンランドの“ソナタ・アークティカ”……いま思い浮かんだ5か国・5バンドだけでも“シンフォニック・ブラックメタル”、“デプレッシブ・ブラックメタル”、“テクニカル・デスメタル”、“グラインドコア”、“メロディック・スピードメタル”とそのジャンルは多岐に渡り、私はその一つ一つ、一段一段の天国を、無我夢中で駆け昇って行った訳である。

 登っている最中は気付かなかったが、心にブッ刺さったバンドをふと思い返してみれば、“モータヘッド”よりも“ヴェノム”、“メタリカ”より“メガデス”より“アンスラックス”よりも“スレイヤー”、“スコーピオンズ”より“アクセプト”より“ハロウィン”より“クリエイター”より“デストラクション”よりも“ソドム”──ジャーマンパワーのやりすぎで俺のケツから火が出たぜ!!ジャーマンパワーのやりすぎは体に悪いぜHeavy Metal!!──とメタル野郎は至極スラッシュメタル野郎であった。こと日本のバンドにおいても“カスバ”、“ドゥーム”、“フラットバッカー”、“アウトレイジ”と超絶スラッシュメタルが好きなのだ。本当、いま気付いた──何の因果で?



 スラッシュメタルとの出会い、マシンガンズとの出会い。私には二人兄が居て、とある晩飯時に三人でケンタッキーフライドチキンを食べていたら、長兄が何食わぬ顔で居間にあったCDラジカセに一枚のCDレコードを入れてね、直後とんでもねえ爆音リフの構築美が、「いらっしゃいませえ」と甲高いしゃがれ声が、リビングの平穏を引き裂いたのだ(手前まだ十歳かそこらの話)。

 「何これえ?」って笑いながら長兄に訊いたらば、ケタケタ嬉しそうに笑ってて、それが彼(か)の名曲“ファミレス・ボンバー”だった。これがスラッシュメタルとの出会い、マシンガンズとの出会い……いや、ヘヴィメタルとの出逢いか。

 それ以前にも“聖飢魔II”や“筋肉少女帯”など、イロモノ扱いされたHR/HMバンドは幾つもいたが──そしてそのどれもが本格的な、本物のHR/HMバンドだったが──“セックス・マシンガンズ”こそは平成ド真ん中を生きた我々の為の、最強のヘヴィメタルバンドであった。



 日テレ「電波少年」のエンディングかフジ「ボキャブラ天国」のエンディングで出会った人も居るだろう、TBS「うたばん」のスタジオトークかNHK「ポップジャム」のカラオケ演奏で出逢った人も居るだろう(「ポップジャム」の“セクシー・ヒーロー・レヴォリューション”観るとあの頃の色々を思い出すぜ)。

 高校で出逢ったブルーハーツ大好きな友達はマシンガンズの2ndシングル“BURN~愛の炎を燃やせ~(1998)”が好きで(カップリングの方の“golden hammer BLACK”は俺っちの一番お気にのナンバー)、学校の教室でよく一緒に歌ったもんだ。大学の友達とは1stアルバム収録の“High Speed SAMURAI”を学校近くのボロいカラオケ屋(マイク入らず壁ボコボコの廃屋みたいな部屋)で「ミサイルよりもぉ(ミサイルよりもぉ)」ってコール&レスポンス熱唱し、その時まさに“北朝鮮がミサイルを発射した”とニュース速報が飛んできて不謹慎ながら笑った事もあった。

 働き始めたら働き始めたで、しんさんと“布袋&マシンガンズ談義”で盛り上がり、すぐさま一緒にバンドを組んだ。しんさんの思い出の一枚は6thアルバム「MADE IN USA(2006)」らしく(兄が持っていたので私も実家でよく聴いていた)、“ZERO”って曲の歌詞が秀逸だとその素晴らしさを改めて教えてくれた。手前は“JUNK FOOD”というナンバーが好きでね、これキッカケでANTHEMの“BOUND TO BREAK”を知ったのだよ(燃えろ!!ジャパメタ)。しんさんは高校の時に組んでいたバンドで“みかんのうた”とかカバーしていたらしく、Unfinished Balladesのリハでスタジオに入った際なども“TEKKEN II”とかピッキングハーモニクスをキュオィイヽンさせて弾いていた記憶があるぜ。



 “マキシマムザホルモン”でも“打首獄門同好会”でもねえ、“SEX MACHINEGUNS”だ。そう、マシンガンズこそが常識だった。ファミレスボンバー?みかんのうた?ギャグバンド?ふざけんぢゃねえ!!あんちゃんは大マヂだ。

 もう捨てちゃったか捨てられちゃったか、その著書名も失念してしまったが、たしか黒バックに赤の題字(だいじ)であんちゃんがメロイックサインをキメている表紙の、音楽誌の連載か何かをまとめたANCHANG'sエッセイ集があって(あったんだよ!)、それを大森のブックオフで100円で何の気無しに買ったらメチャクチャ面白くて、ありゃ我が青春のバイブルだった(ぢゃ何でいま手元に無えんだ!)。

 「“スラッシュメタル四天王(BIG4)”の中ぢゃアンスラックスが一番情けない歌詞だが奴らマヂで演っているので一番好きだ」、「ロブ・ハルフォードがジューダス・プリーストのライヴでハーレーにまたがって登場するのはスゲェダサいが最高だ」、「ディープ・パープルは“バーン”より“スモーク・オン・ザ・ウォーター”よりド直球でおバカな“ファイアーボール”が一番好きだ」的な事が書いてあったはずだが(読んだのが十代の頃、もう15年以上前の事なので、多少の記憶違いはご容赦ください)、この著書名すら忘れた名著のお陰で、私はメタルの何たるかを学んだ、あんちゃんから学んだのだ(あんちゃんの愛車のC3かC4のコルベットも載っていたはずだ!俺らマッスルカーならダッジ・チャージャーの方が好きだがな!がはははは)……いざ買い直そうと思って古本屋やレコード屋の書籍コーナーを見て回ってもこれが無いんだよね、もしかして実家の押し入れの段ボールとかにまだ眠っているかしらん?



 前置きが大変長くなったが、しんさんからのお誘いで“SM Show”に参加してきた。これぞ“SM奇譚(きたん)”?まさに“濹東綺譚(唐突に荷風)”──いや“鋼鉄綺譚”!!“パーセキューション・マニアT(ソドム)”を着てね、何故って俺、ジャーマンパワーですから、俺ら、ヘヴィメタルコマンダーですから(今回のツアータイトルよ)。そのツアー初日、かつて外道がポリスに見張られながら狂熱のライヴ繰り広げた町田にて、速弾きブリッジミュートをザクザクと刻まれ、ピロピロとライトハンドかまされ、ドコドコとツーバス踏まれてきたってんだ。キャパ200人の地下の密室の至近距離で、重金属の爆音・轟音を三時間弱も、久しぶりにこんな耳鳴りが止まねえぜ、これ書いている今も耳が遠いんだぜ、絶対明日起きてからもキーーーーーー(経験者は語る)……それにしてもヘドバンの意味が分かったぜ、メロイックサインの意味が判った、ヘヴィメタルの全てが解ったんだ。これで明日から恐いもん無しだ、怖いもん無しにする為に、頭を振れ!拳を掲(かか)げろ!ヘヴィメタルと叫べ!これは画期的ですよ、依存性の高い薬物ですよ、黒魔術の儀式ですよ、メタルが他の音楽と同じ一ジャンルとして扱われているのが納得いかないんですよ、だって宗教より宗教ですよ、しかも皆が皆勝手に救われる。本当、聴けば聴く程に、歳を重ねれば重ねる位に、あんちゃんがマヂだって分かんだぜ。世間、これでもイロモノか?ヘヴィメタルが、分からんか!!

 人生で五本の指に入る最高のライヴだったぜ、町田。何の曲を演ったのかは、年末のツアーファイナルまで口外すべきでないと思うが、聴きたい曲を幾つも幾つも演ってくれた。それもBPMの狂った容赦無いゴリゴリの演奏と、喉ちぎれんばかりに天まで引き裂いてしまうよなANCHANGの絶叫で……しんさんとまたメタルのライヴに参戦する事を約束した。



 ちなみに己がマシンガンズベストを一枚選ぶなら、2ndアルバムの「MADE IN JAPAN(1999)」であります。V系の嵐が吹き荒れていた当時の空気もそこはかとなく感ぜられ、あの世紀末の不穏な狂騒、特に“illusion city”の刹那・疾走、“Iron Cross”の重厚・悲愴に是非、嬲(なぶ)り嫐られセックス、マシンガンと殺されてみてください。“TEKKEN II”、“MAGNUM fire”、“American Z”、“Operation TIGER”、“ONIGUNSOW”、“Yellow Card”……一曲たりとも攻撃の手を緩めない、重金属による執拗な蹂躙(じゅうりん)で、“にっぽん製(唐突に三島)”を冠するこの名盤に君は、果たして生きて還れるか?



 この非売品・プロモ用「MADE IN JAPAN」を見ろい(販売・譲渡禁止なのに数百円で販売・譲渡されていたんだぜ)!!古着、古本、楽器、CD、レコード、裏ビデオ等々、何でも手に入る“月光堂”という怪しいリサイクルショップが高校の帰り道にあってな、下校時に友達と学ラン着たままよく通ったもんだが、18歳の時にそこで手に入れたものだ……17年前から何一つ成長していない、何も変わっちゃいねえだ、それくらい変な話だ、変わらねえとは変な話だってんだ、そしてそれはこれからもだ──


 全き鋼鉄だからだ。


2024年5月2日木曜日

堕落・続堕落の詩(十二支詩・辰)



あゝ僕、どん/\悪くなってゆく。着るものは段々と色褪(あ)せて擦り切れ、食べるものはどん/\お粗末にその量も減らし、住む処だってボロ家みたく軋(きし)んで傾いてきた。あの人みたいに毎日、衣食住も新たに、立派な生活など出来なかった。堕(お)ちぶれた日常において、この心身もちゃんと落ちぶれた。夜は一時(いっとき)も眠られず、肌は荒れ、心も穢(あ)れ、誰にも相手されなくなった。こんな日々、いつまで続くのかな。ずっと死ぬまで陽の目を見ないで、一人ひっそり消えてゆくのかな。じり/\、じり/\、その時が刻一刻と、今やって来ている最中なのかな。全て知らなんだ!楽しかった頃に戻りたいが、既に色んな縁が切れちゃって、もう二度と無理なの!どうしようもない、どうしてこうなったんだ!僕はいつまでこれ繰り返すんだろう、全くあきれるね。あゝ成りあがれ、為(な)りあがれ──


嗚呼私、どん/\深くなってゆく。着るものは段々と相応(ふさわ)しく洗練され、食べるものはどん/\見極められその度に美味(うま)し、棲(す)む処だって隠れ家みたく妖(あや)しく輝(て)ってきた。あの人みたいに毎日、人間味も消して、不穏な生活など出来なかった。見つけられた日常において、この心身もちゃんと観(み)つけられた。昼に一瞬でも眠られて、肌は慣れ、心も馴れ、誰も相手にならなくなった。こんな日々、いつまで続けられるかな。ずっと死ぬまで奇異の目に曝(さら)されないで、一人じっくり考えていられるかな。じり/\、じり/\、その時が刻一刻と、今やって来ている最中なのかな。全て分かった!知らなかった頃に戻りたいが、既に色んな事が知れちゃって、もう二度と無理なの!どうしようもない、どうしてこうなったんだ!人間はいつまでこれ繰り返すんだろう、全くあきないね。嗚呼堕ちぶれろ、落ちぶれろ──




2024年5月1日水曜日

35歳25歳:Beyond the Burning



「Beyond the Burning」
作詞・作曲:Nori MBBM

Are you burning?
We are burning
Shout the four letters
M.B.B.M

You need cooling
I'm not fooling
Back to schooling
Beyond the burning

Are you burning?
We are burning
Shout the three words
Dogra-Magra-Dogma

Are you burning?
We are burning
Shout the two facts
HR/HM

Are you burning?
We are burning
Shout the one fuck
Beyond the burning

The sky is black
I wanna understand
Past daylight
M.B.B.M

The sky is red
I don't understand
Past midnight
Beyond the burning



 35歳となりました。その年の頃、己が心の師・親鸞上人(しんらんしょうにん)は“如何(どう)であったか”と云うと──

一二〇七(承元元)年(三十五歳)
二月、専修念仏停止により法然らとともに処罰され、越後国府に流罪(るざい)となる(承元の法難)。

 拙宅(せったく)所蔵の資料によると、この通りである。39歳に流罪赦免(しゃめん)となった様だが、その一年一年さぞ長かったろうに。毎日毎日大変だったろう……毎秒毎秒無念だったろう。それを想えば、俺なんて俺なんて──やっと25歳だ!!この半世紀馬鹿野郎が!!





 即(すなわ)ち、いま人生の一大事業に取り掛かっている訳で。これがまた命取りとなる位、もう全てを諦めてしまいたい程、毎日じわじわと、心底しんどいのだが、そこは巳年の牡牛座、人生がその気なら、こっちだってば、毎秒じわじわと、やってやろうぢゃん。だってグラム歌謡ぢゃんメタル野郎ぢゃん?──早ければ来年の今頃に発表できたら良い、と考えている。一大事業、それ迄は頑張って生きようぞ。

三十五歳の彼は春の日の当った松林の中を歩いていた。二三年前に彼自身の書いた「神々は不幸にも我々のように自殺できない」と云う言葉を思い出しながら。……

 みんな大変だったぢゃん──あゝ自殺できぬ自殺できぬと──無様(ぶざま)でも生きようぢゃん。

 神様なぞ存在する訳ねえと云われても──ほら何か思い付いて想像して──創造すればこその神ぢゃん。

 アイム・ア・セクシー・マザー・ファッカー。



 だから無様でも一向(いっこう)死ねないという、そういう道理なので御座居ます。今日は無性に、カツ丼でも喰らいてえな?




2024年4月27日土曜日

復活の日 –跋文–

もうこの本の読者ではないのかもな、と思い始めたのが十年前。もうこの本の読者ではないのだな、と想い至ったのが数年前。だからもう買っていないロキノン、そのJAPAN。先月出た五月号にイエモンの最新インタビューが載っている、という訳で近所の図書館に行った。ライヴ前に。



 2016年の再集結は、再結成というより新しいバンドをまた一つ組んだ感じ、という話の中でアニーさんの云われた「だから『9999』もちょっと、インディーズ的な──すごいでっかいインディーズなんですけど(笑)、そういう感覚はありましたね」という言葉が、成る程そういう事か!!と今のイエモンを理解した想いで、膝(ひざ)を打った。とすると次の10枚目が(二度目の)メジャーデビュー作か、了解した。図書館の破れた椅子で。



 それから喉頭癌(こうとうがん)の放射線治療により、半年声が出せぬ状況下での楽曲制作、「シンプルにならざるをえなかったっていう。ほとんど口笛で作ってたので(笑)」という吉井さんの告白は、今のイエモンの楽曲を“円熟した洗練の極み”とか短絡的に判断してしまいがちな、手前の考えを改めさせた。「今までは客観的な死を歌ってたけど、今は主観的な死を歌うように聞こえてるんですよね、僕はね。」とはアニーさん。東京ドームへ向かった。




 SUPER指定席で観てきたぞ(何とお土産付きだ)。今回の東京ドームは“(バンド史上)過去最多動員らしい”と吉井さんがMCで仰(おっしゃ)っていたが、そんなライヴをスタンド席でなしアリーナの良い席で観られたのだから、それだけで望外(ぼうがい)の喜びと言うべきである。が、(二度目の)復活ライヴという事で、コアなアルバム曲はほぼ演らず、シングル曲やアルバムリード曲のオンパレードであった。いや、演って欲しかった曲は数あれど、超充実した楽しいライヴだった。遂に生で聴けた“人生の終わり”……それも吉井さんの命を削る様な今の声で。



 演奏は勿論(もちろん)だけど──ヒーセおやびん興奮しすぎて一睡もせずに今日の本番を迎えたそう──吉井さんの歌、凄まじかった。数曲歌ってやはり声が掠(かす)れてしまい、時折裏返る処もあったけど、終盤ではまた何処迄(どこまで)も伸びる様な声、裏声、叫び、がなり、圧巻だった。喉頭癌の治療の為に何度も手術を重ね、誰もやった事のない様な歌のリハビリをして、東京ドームで3時間近いライヴを演る……いやはやまったくとんでもない。



 それとこれは縁起でもないが、吉井さんの声がこれからどんな状態になろうと、“Welcome to my Doghouse”だけは格好良く歌ってくれるんだろうな、という事は分かった。あれは、そういう歌だ。良い時も悪い時も、たといガラガラに声が掠れても。






 生演奏ではなかったけれども、VTRで流れた新曲“復活の日”、これは俺達の為の、日本語による、令和における“すべての若き野郎ども”だね。ちゃんと大事な処はグラムロックしてくれるから、つくづくこのバンドを好きで居て良かったと思う。信じていて良かったと。



 暁に果てるまで、で、パーン!!東京ドームに紙吹雪がキラキラと、金銀テープがひらひらと、身長を活(い)かして空中キャッチしましたわよ……Asian boy、Asian boy、もしかして君も、Asian boy?


 ィエッッサー!!