人には言えぬ趣味があって、それは“天国の階段”を上(のぼ)る事であった。お茶の水駅前の二階へと続く、あれだよ。細長い、薄暗い、今は亡き、あれだ。
Xの“アイル・キル・ユー”の歌メロフル無視絶叫カバーが素晴らし過ぎる──“過ぎる”という何にでも濫用(らんよう)されるこの形容はエクストリームメタルにこそ相応(ふさわ)しい──フランスの“アノレクシア・ネルヴォサ”、女児をハンマーで殴り付けてブタ箱に入れられた精神分裂症のボーカルがコウメ太夫より先にコウメ太夫の様に絶叫するスウェーデンの“サイレンサー”、速すぎて遅く・重すぎて軽く・正確無比すぎて滅茶苦茶に聴こえる手数(てかず)/音数(おとかず)が千手観音(せんじゅかんのん)なカナダの“クリプトプシー”、数十秒ないし十数秒のナンバーも繰り出しながらローファイな轟音の嵐を矢継ぎ早に容赦無く叩き付けてくるアメリカの“ブルータル・トゥルース”、我が十代の重大アンセムである名盤1st「エクリプティカ(1999)」収録の5曲目“キングダム・フォー・ア・ハート”を残してくれただけでも有り難うなフィンランドの“ソナタ・アークティカ”……いま思い浮かんだ5か国・5バンドだけでも“シンフォニック・ブラックメタル”、“デプレッシブ・ブラックメタル”、“テクニカル・デスメタル”、“グラインドコア”、“メロディック・スピードメタル”とそのジャンルは多岐に渡り、私はその一つ一つ、一段一段の天国を、無我夢中で駆け昇って行った訳である。
登っている最中は気付かなかったが、心にブッ刺さったバンドをふと思い返してみれば、“モータヘッド”よりも“ヴェノム”、“メタリカ”より“メガデス”より“アンスラックス”よりも“スレイヤー”、“スコーピオンズ”より“アクセプト”より“ハロウィン”より“クリエイター”より“デストラクション”よりも“ソドム”──ジャーマンパワーのやりすぎで俺のケツから火が出たぜ!!ジャーマンパワーのやりすぎは体に悪いぜHeavy Metal!!──とメタル野郎は至極スラッシュメタル野郎であった。こと日本のバンドにおいても“カスバ”、“ドゥーム”、“フラットバッカー”、“アウトレイジ”と超絶スラッシュメタルが好きなのだ。本当、いま気付いた──何の因果で?
スラッシュメタルとの出会い、マシンガンズとの出会い。私には二人兄が居て、とある晩飯時に三人でケンタッキーフライドチキンを食べていたら、長兄が何食わぬ顔で居間にあったCDラジカセに一枚のCDレコードを入れてね、直後とんでもねえ爆音リフの構築美が、「いらっしゃいませえ」と甲高いしゃがれ声が、リビングの平穏を引き裂いたのだ(手前まだ十歳かそこらの話)。
「何これえ?」って笑いながら長兄に訊いたらば、ケタケタ嬉しそうに笑ってて、それが彼(か)の名曲“ファミレス・ボンバー”だった。これがスラッシュメタルとの出会い、マシンガンズとの出会い……いや、ヘヴィメタルとの出逢いか。
それ以前にも“聖飢魔II”や“筋肉少女帯”など、イロモノ扱いされたHR/HMバンドは幾つもいたが──そしてそのどれもが本格的な、本物のHR/HMバンドだったが──“セックス・マシンガンズ”こそは平成ド真ん中を生きた我々の為の、最強のヘヴィメタルバンドであった。
日テレ「電波少年」のエンディングかフジ「ボキャブラ天国」のエンディングで出会った人も居るだろう、TBS「うたばん」のスタジオトークかNHK「ポップジャム」のカラオケ演奏で出逢った人も居るだろう(「ポップジャム」の“セクシー・ヒーロー・レヴォリューション”観るとあの頃の色々を思い出すぜ)。
高校で出逢ったブルーハーツ大好きな友達はマシンガンズの2ndシングル“BURN~愛の炎を燃やせ~(1998)”が好きで(カップリングの方の“golden hammer BLACK”は俺っちの一番お気にのナンバー)、学校の教室でよく一緒に歌ったもんだ。大学の友達とは1stアルバム収録の“High Speed SAMURAI”を学校近くのボロいカラオケ屋(マイク入らず壁ボコボコの廃屋みたいな部屋)で「ミサイルよりもぉ(ミサイルよりもぉ)」ってコール&レスポンス熱唱し、その時まさに“北朝鮮がミサイルを発射した”とニュース速報が飛んできて不謹慎ながら笑った事もあった。
働き始めたら働き始めたで、しんさんと“布袋&マシンガンズ談義”で盛り上がり、すぐさま一緒にバンドを組んだ。しんさんの思い出の一枚は6thアルバム「MADE IN USA(2006)」らしく(兄が持っていたので私も実家でよく聴いていた)、“ZERO”って曲の歌詞が秀逸だとその素晴らしさを改めて教えてくれた。手前は“JUNK FOOD”というナンバーが好きでね、これキッカケでANTHEMの“BOUND TO BREAK”を知ったのだよ(燃えろ!!ジャパメタ)。しんさんは高校の時に組んでいたバンドで“みかんのうた”とかカバーしていたらしく、Unfinished Balladesのリハでスタジオに入った際なども“TEKKEN II”とかピッキングハーモニクスをキュオィイヽンさせて弾いていた記憶があるぜ。
“マキシマムザホルモン”でも“打首獄門同好会”でもねえ、“SEX MACHINEGUNS”だ。そう、マシンガンズこそが常識だった。ファミレスボンバー?みかんのうた?ギャグバンド?ふざけんぢゃねえ!!あんちゃんは大マヂだ。
もう捨てちゃったか捨てられちゃったか、その著書名も失念してしまったが、たしか黒バックに赤の題字(だいじ)であんちゃんがメロイックサインをキメている表紙の、音楽誌の連載か何かをまとめたANCHANG'sエッセイ集があって(あったんだよ!)、それを大森のブックオフで100円で何の気無しに買ったらメチャクチャ面白くて、ありゃ我が青春のバイブルだった(ぢゃ何でいま手元に無えんだ!)。
「“スラッシュメタル四天王(BIG4)”の中ぢゃアンスラックスが一番情けない歌詞だが奴らマヂで演っているので一番好きだ」、「ロブ・ハルフォードがジューダス・プリーストのライヴでハーレーにまたがって登場するのはスゲェダサいが最高だ」、「ディープ・パープルは“バーン”より“スモーク・オン・ザ・ウォーター”よりド直球でおバカな“ファイアーボール”が一番好きだ」的な事が書いてあったはずだが(読んだのが十代の頃、もう15年以上前の事なので、多少の記憶違いはご容赦ください)、この著書名すら忘れた名著のお陰で、私はメタルの何たるかを学んだ、あんちゃんから学んだのだ(あんちゃんの愛車のC3かC4のコルベットも載っていたはずだ!俺らマッスルカーならダッジ・チャージャーの方が好きだがな!がはははは)……いざ買い直そうと思って古本屋やレコード屋の書籍コーナーを見て回ってもこれが無いんだよね、もしかして実家の押し入れの段ボールとかにまだ眠っているかしらん?

前置きが大変長くなったが、しんさんからのお誘いで“SM Show”に参加してきた。これぞ“SM奇譚(きたん)”?まさに“濹東綺譚(唐突に荷風)”──いや“鋼鉄綺譚”!!“パーセキューション・マニアT(ソドム)”を着てね、何故って俺、ジャーマンパワーですから、俺ら、ヘヴィメタルコマンダーですから(今回のツアータイトルよ)。そのツアー初日、かつて外道がポリスに見張られながら狂熱のライヴ繰り広げた町田にて、速弾きブリッジミュートをザクザクと刻まれ、ピロピロとライトハンドかまされ、ドコドコとツーバス踏まれてきたってんだ。キャパ200人の地下の密室の至近距離で、重金属の爆音・轟音を三時間弱も、久しぶりにこんな耳鳴りが止まねえぜ、これ書いている今も耳が遠いんだぜ、絶対明日起きてからもキーーーーーー(
経験者は語る)……それにしてもヘドバンの意味が分かったぜ、メロイックサインの意味が判った、ヘヴィメタルの全てが解ったんだ。これで明日から恐いもん無しだ、怖いもん無しにする為に、頭を振れ!拳を掲(かか)げろ!ヘヴィメタルと叫べ!これは画期的ですよ、依存性の高い薬物ですよ、黒魔術の儀式ですよ、メタルが他の音楽と同じ一ジャンルとして扱われているのが納得いかないんですよ、だって宗教より宗教ですよ、しかも皆が皆勝手に救われる。本当、聴けば聴く程に、歳を重ねれば重ねる位に、あんちゃんがマヂだって分かんだぜ。世間、これでもイロモノか?ヘヴィメタルが、分からんか!!
人生で五本の指に入る最高のライヴだったぜ、町田。何の曲を演ったのかは、年末のツアーファイナルまで口外すべきでないと思うが、聴きたい曲を幾つも幾つも演ってくれた。それもBPMの狂った容赦無いゴリゴリの演奏と、喉ちぎれんばかりに天まで引き裂いてしまうよなANCHANGの絶叫で……しんさんとまたメタルのライヴに参戦する事を約束した。
ちなみに己がマシンガンズベストを一枚選ぶなら、2ndアルバムの「MADE IN JAPAN(1999)」であります。V系の嵐が吹き荒れていた当時の空気もそこはかとなく感ぜられ、あの世紀末の不穏な狂騒、特に“illusion city”の刹那・疾走、“Iron Cross”の重厚・悲愴に是非、嬲(なぶ)り嫐られセックス、マシンガンと殺されてみてください。“TEKKEN II”、“MAGNUM fire”、“American Z”、“Operation TIGER”、“ONIGUNSOW”、“Yellow Card”……一曲たりとも攻撃の手を緩めない、重金属による執拗な蹂躙(じゅうりん)で、“にっぽん製(唐突に三島)”を冠するこの名盤に君は、果たして生きて還れるか?
この非売品・プロモ用「MADE IN JAPAN」を見ろい(販売・譲渡禁止なのに数百円で販売・譲渡されていたんだぜ)!!古着、古本、楽器、CD、レコード、裏ビデオ等々、何でも手に入る“月光堂”という怪しいリサイクルショップが高校の帰り道にあってな、下校時に友達と学ラン着たままよく通ったもんだが、18歳の時にそこで手に入れたものだ……17年前から何一つ成長していない、何も変わっちゃいねえだ、それくらい変な話だ、変わらねえとは変な話だってんだ、そしてそれはこれからもだ──
全き鋼鉄だからだ。