2025年5月1日木曜日

36歳24歳:シユトルム・ウント・ドラング


18世紀後半のドイツにて、理性的かつ抑制的な啓蒙主義に対するカウンターとして、情動ないし衝動の解放その奔放を描いたゲーテ、シラーなどが現れた。「若きウェルテルの悩み(1774)」はその筆頭であるが、ゲーテは同時期に大作“ファウスト”の原型となる「初稿(ウル)ファウスト(1775頃)」をも書き上げており、まさに“疾風怒濤”の創作期に入っていた。

 20世紀初頭の日本では、これまた論理的かつ客観的に真実を描こうとする自然主義文学が猛威を振るい、その無味乾燥な野暮を退けるかの様に永井荷風、谷崎潤一郎らが──甘美で粋な、豊饒極まる歪な世界で以て──ぬるりと現れた(「異端者の悲しみ(1917)」の最後の一節にその自負が表れている、だから俺は谷崎が大好きだ)。俗に“耽美・頽廃主義”と云われるものであるが、その影響は文学のみならず、後(のち)の音楽において“グラムロック”や“ヴィジュアル系”として華開く事となった。

 オスカー・ワイルドはボウイ&ボランだけでなし、というかそれよりも先に三島&谷崎に愛されていたし、“ベルリン三部作”時代のボウイは自ら描いた三島の肖像画を部屋に飾っていたし(レプリカのポスターとかで良いからアレ欲しいねん)、さらにボウイ&三島(&吉井父)が吉井さんに「ジャガー・ハード・ペイン(1994)」を作らせたのだし、であるからして俺はこのアルバムが一番好きなんだ、一番って世界中いや全宇宙の中の一番だから、死ぬ迄いいや死んでからもそういう事にしておくから、いいか、今日からだ、分かったか、と十代の終わりに自らを脅迫し、ここにグラム歌謡メタル野郎と相成りまして御座候ふ……いつの間にやら手前の話へと脱線しちゃったが誕生日だから許せ!



 こと現在はどうだろうか?21世紀初頭のこの国は?音楽なんざはいざ知らず、こともあろうに文学が、芥川の名を冠する賞を受けた作品の数々が、その稚拙な精神性や文体の無さが、作品を最後まで読ませてくれない。何なら奇を衒った作品タイトルやエモい装丁だけで、一頁も読ませてくれない。本屋に行って新刊発売を喜ぶにしても、夢野久作だ澁澤龍彦だ存命ぢゃない、町田康だ中原昌也だ若手ぢゃない。シティーポップだエモいだチルだもう終わりだとしても、文学の方のこの文体の喪失、思想の貧困はいつ終わるのか──まさかこれから更に隆盛を極めるというのか?山頭火みたく世捨て人になりたくもなるが、そうはさせない……清廉潔白とか、馬鹿の一つ覚えに何でもかでも漂白させない。

 ショーペンハウアーの“ミットライト・ペシミズム(共苦・厭世主義)”よりも、ニーチェによる“ディオニージッシュ(ディオニュソス的なもの)”が生ぜしめる、この男の性の肯定!ドグラティック・ドグマ。

 釈尊の“一切皆苦(いっさいかいく)”よりも、親鸞による“悪人正機(あくにんしょうき)”が生ぜしめる、その女の性の肯定!マグラティック・ドグマ。

 シュトゥルムとドラングその二つの勢力による、ドグラとマグラこの二つの精力的なる、二つの性による生のドラマ、たかが一つの思想たる、されど一つの強靭たる、単なるドグマ!ドグマティック・ドグマ。

 現代に奪還してやる、いま五十一の自由律短歌で──


「シユトルム・ウント・ドラング」
by Nori MBBM

天界が別世界この新世界たる下界に男ありけり

女呼ばふ夜這ひの天上が月と太陽も無かりけり

天界が俗世界この下界に男いと暗きに来けり

女夜這ふ天上が月も鬼はや一口に食ひてけり

獨隅羅と言ひけれど疾風の騒ぎにえ聞かざりけり

曼隅羅と足摺りをして怒濤に啼けども甲斐無し

疾風怒濤か何ぞと人の問ひしとき獨隅曼と答へて消えなましものを

──シユトルム・ウント・ドラング


馬鹿寒いと憤死しそうなつた三十五の冬いちばん老けてた

死んだヱアコン死んだテレビ死んだ洗濯機と俺ら皆死んだ振り

今度この酷寒に狼狽へるは七十の冬きつと死に際

その寿命の根拠はダンテが云つてたんだつて去り際

栄華を極めた肉塊の老いと若きが交ざり合ふ処いま

手前のいちばん美味しい時に喰はれたかつた恋人よ

恋人達でなし恋人その一人/\の情交ホルマリン漬け

挿れながら御々足を頬に当て踏まれたい谷崎みたいな心持ち正常位

二人夢見た仏教伝来ヰンド料理中華料理食べよ砕けよ

十一時開店の中華料理屋目掛け目醒す目覚まし体内時計

十二支の一周以上も高円寺に居りや物価だつて一点五倍

食べ放題の中華焼き蕎麦辛うなつたは御代はりさせぬ為

二度も逢はぬ奴と交わす無意の杯ラヰブハウス三文芝居

ラヰブも宅録もせんでギタア弦張り替へ年に一回な倍音

ベヱスなぞ中古で買つた十年前の弦そのまゝ化石な低音

買ひたい買へない立ち読み立ち寄る古本屋にてこれ作歌す

壱萬円数枚で足許見るなよ春日井建の未青年

三島の自裁が緑素粒の大空の斬首にまた別のヰメヱヂを齎す

これはマルドロヲルの自由律短歌なんだヰジドヲルヂユカス

断頭台の上での俺と三島の必然の出逢ひを立ち読みの無料で済ます

三島の自裁が憂国のクラヰマツクスにまた別のヰメヱヂを齎す

カアトの自殺が各楽曲のgunの一語に特別なヰメヱヂ齎した様に

好きなレコヲドが一枚も載らぬヂスクユニオンの壁見上げ

死んだり捕まつたりすつと高騰する中古レコヲド皆御手上げ

であるから二進も三進もゆかぬニツチなレコヲドが手土産

好きなレコヲドが一枚も載らぬヂスクユニオンの壁また見上げ

ゴヲルデン街の方へ向かふまで俺が安レコヲド割るなよ君たち

芸道の神お出掛けしてゐて逢へなかつたわ花園神社

それでもぢつと佇む狛犬狛犬狛犬さんに挨拶と言伝る

信仰と不信感と我が親鸞とニヰチヱ鬩ぎ合ふ

山頭火と放哉と我がギヨエテとシルレル競り合ふ

五七五七七から噴き出すは型破りなシユトルムウントドラング

己がリヅムは御頭の意のまゝ波長の合ふた破調のスラング

句跨りや女跨りやで散文詩と見分けの付かぬシユトルムウントドラング

シヤルロツテやグレヱトへンや二条の后を横抱きに奪ひ去るシユトルムウントドラング

せめて死後の世界で詩世界で奪ひ返すがシユトルムウントドラング

──シユトルム・ウント・ドラング


浚ひながら渫へ晒し曝け出せ真白き疾風怒濤

海行かば攫へ吉日旭日とかつて己が墜としたもの

腹の血潮の黒し赤しの悟り無きが全き真白に塗り潰せ

山行かば拾へ卯月皐月を跨いだ夜に落としたもの

簒ひ去つて遺して行け心の至る処に有り余る白だけ

たゞ真心の縁に白き図柄の憶えがある人さうするだけ

忠誠やヱロスに見紛ふぢやなしヱロスや忠誠が見紛ふぢやない

己が一代は似るぢやなし己が一代にぞ似たりける


~~~~~~


「なんじら神のごとくなりて善悪を知るに至らん」
(「旧約聖書」“創世記”第三章・五節より)



 獨隅曼(ドグマ)も知らぬ獨隅羅(ドグラ)は、曼隅羅(マグラ)に捧げし青春の為に死んだ。



 獨隅曼を閲(けみ)した獨隅羅は、曼隅羅と林檎を食べた為に死んだ。



 獨隅曼のその実(じつ)はエデンの園の、禁断の実(み)と蛇は知らなんだ。



 獨隅曼の園の町の蛇は、その蛇を見たのが四回目だと云った──


 “エリチス・シイクト・デウス・スチエンテス・ボヌム・エット・マルム”ドグマッ


2025年4月9日水曜日

愚か者、調べ物(読みまくり、書きまくる)

短刀の言葉、さくっと一刺し次々にひれ伏(ふ)す、矢継ぎ早、そそくさと現場から現場へ消え失(う)す、左様なら、言葉に規定された個々人を見知らぬ土地の何処(どこ)か、強引に引っ張って行って連れ回す文章が、なかなか句点(くてん)を打とうとせず、斯様(かよう)に読点(とうてん)ばかり引き継ぎ、引き続き、引っ掻き回し、匕首(あいくち)を急所に突き刺したまま捻(ひね)って痛み自覚さす、作用なら、馬鹿たれ、愚か者、調べ物より捻り出したる寸鉄(すんてつ)の言葉、読みまくり書きまくる言葉、世が世なら、寸言(すんげん)たる、寸言たれ、寸言たりし言葉、言葉、言葉集(つど)いし究極の文章、何故なら、お前の一生を一変さす文言ばかり集めた文章、文章、文章に一生を棒に振る、畜生……死ぬまで延々と良い子、悪い子になりてえのだ!

 絶版・廃刊になっている本や、おいそれと気軽に買って読めない分厚い全集(に所収されている解説や、誰かに宛てた推薦文や、雑誌に掲載された書評やエッセイなど)を読む為に、たびたび図書館を利用している。或いは、調べ物をしに。国会図書館にしかないものもあるから、そういう時はわざわざ永田町まで出向いたりするが、大体は近所(高円寺・野方)か隣町(中野)の図書館で事足りる、というか居心地が良いので、街の図書館の方をよく利用している。国会図書館の広大で殺伐とした無機的な感じは、よう好かん(手荷物ロッカーの処に居た警備員のおじいさんは良い人だったけど)。


閉架(へいか)にあった貸出禁止本なので、館内の閲覧席でじっくりと読ませて頂きました(快適な、中野図書館にて)

 三島が好きだった作家ないし著作に当たったり、個人的に目を付けた作家や著作に三島が既に目を付けていたり、そうこうする内、そういえば三島が所蔵していた書物とか一部・断片的には知っているけども、その全体像というか目録ってないのかしらんと思って調べたら、ちゃんとあった(さすが三島)。


自決からちょうど一年後に書かれた序文に、此の夫にして此の妻あり(ないし此の妻にして、か)としみじみ思う

 三島の奥さんが編集に携(たずさ)わった「定本 三島由紀夫書誌」なるものがそれで、冒頭から演劇や映画に出ている三島やら美輪明宏やらのお耽美な写真が満載で、その第五部にお目当ての“蔵書目録”があった。

 (こんなの朝飯前と)気軽にリストアップしようと思ったのが間違いで、延々続く転記作業にたまの休みの日中を全部使っちまった──三島の書斎・書庫にある約一万五千点の蔵書の中から、あくまで一部となる目録らしいのだが、気になる著作を百点ほどピックアップするのに、四時間半も掛かってしまった。世間からすりゃ誰とも会わず、一言も発せずただ一頁一頁ぱらぱら繰(く)ってはメモメモだなんて、作業が終わって外へと出たら夕方・日没だなんて、しかも朝から何も飲まず食わずだなんて、哀しくも淋しい休日やもしれぬが、己が生き甲斐はこういう処にこそある──

・土屋道雄 「人間 東条英機」 育誠社 S42.12.8

・東郷青児 「カルバドスの唇」 昭森社 S11.10.20

・トービス星図 「星占い入門」 隆文社 S37.5.15

・富田英三 「ゲイ」 東京書房 S33.6.10

 例えば、目録の“と”の箇所から自分がピックアップした著作のごく一部を挙げれば、どれも読んだ事ねえし、内容めちゃ気になるし……帰宅して早速、富田英三の「ゲイ」をググってみたらば、昭和のゲイボーイの白黒スナップ写真が出てきて、ますます読みたくなったワ(昭和のアングラ風俗史とかヤンキー大好きなので)。逆に、これ持っていたはずなのに目録に載っとらんぞってのもあって(手塚富雄訳の中央公論版「ツァラトゥストラ(ニーチェ)」とか、春日井建の処女歌集「未青年」とか)、まあそれは一部抜粋だから仕方ないかとも思ったが、これでまた手前の読みまくり書きまくるネタが充分過ぎる程に増えたぞってんで。


数年前に店仕舞いしてしまったが、高円寺民にはお馴染みの、都丸書店が献本していた

 そもそも読みまくり書きまくるとは何か?何をお前そんな躍起になっているのか?それは私個人が言葉・文章というものを規定する行為であるのだが、同時にまた言葉・文章より私個人が規定される変態の(変容の!変質者の!)この上ない快楽なのであった。メタモルフォセス──ぢゃなきゃ読みまくらないし書きまくらない。死んで生まれ変われるなら話は早いが、早い話が言葉・文章によって生まれ変わりたいのだ。死ぬまで延々と悪い子、良い子になりてえのだ!

 しかし将来何がしたいのだ、結局君どうなりたいんだ、愚か者、本や言葉に応える事はあっても、神や人間に答える訳がない。あなた方はただ、規定された私個人を見ていてくれ……金をくれ、休みをくれ、いや休みはいつでも休めんだ、休むに金が、要するに金が要るのだ──タイム・イズ・マネー──何だ結局お金か、厭な言葉だ、いや単なる言葉だ、金金金、世界を変えるプロセスは言葉だ、言葉言葉言葉、ほら言葉言葉言葉、言葉言葉言葉。


 重い、重過ぎるよ、切り離してくれよ、ねえ、もう良いから、剥がしてくれよ、言葉、また言葉、もう言葉でも良いからさ、短刀の様な、言葉!


2025年3月31日月曜日

“短歌”と書きて“ドグマ”と読む哉

いざや、短歌(ドグマ)百連発!!



 子供時分、正月に実家へと帰り、「ゲームしたぁい」と駄々こねっと、大正生まれの父方の祖母が「百人一首すっか?」と尋ねたもんだ。「そんなんゲームぢゃない」と厭(いと)ふと祖母は微笑(ゑま)ふたが、今ぢゃTVやPCゲームの方が退屈極まりなく、あのとき百人一首を祖母と皆でやっておれば、なあ誰か無性にやりたいだ、とさうかうするうち気持ち昂ぶってまひ、祖母の百歳の御祝ひに百首、自ら作ってしまったといふ訳で。


屹立す 俺とお前が 鰯雲 突き抜ける赫し 凱風快晴

 祖母は半世紀以上、毎日日記を付けてゐる。今日だって、今だって。その日毎(ひごと)に、その日毎の反省を綴ってゐる。しかしこれは私にとって、過去であり未来であった。つまり、少なくとも現在ではなかった。古代や後代(こうだい)であって、限りなく近代ではなかった。

 現在や近代の反省とやらは、全く取り留めない。限りなく背負ひ込み、大いなる何ものと接触しやうと失敗す。祖母は別に大いなる何ものと取り合ふ事もせず、一つ/\を淡々とこなすばかし。そして一世紀を活き/\と生きるのであって、決して一世紀を生きてやらうと意気込みはしない。今日だって、今だって。

 現在や近代に大いなる何ものと弄(もてあそ)ばれ、私は祖母ほどに生きられぬであらう。あゝ祖母の日記の潔(いさぎよ)さ、おゝ五七五七七の心地好(よ)さ。今日お前が背負ふのは、今日のお前だけで良いに。どうしてまた百も背負ふて、これがどうして私の役目だから。私は百年も生きられぬであらう、たゞ百年を詠ふ事しかできぬであらう──


「ドグマ百人一首」
by Nori MBBM

【大正・二十五首】

一、自然主義 シチヰポツプの 息の根を 止めて遣りたし 荷風が世直し

二、男子の 自づと涜す手 速やけく 千夜一夜に 女子ら微笑ふ

三、彼の暮らし 大正近く なりにけり 風の時代ぢや えデモクラシヰ

四、訛りゐる 絶対矛盾的 自己同一 其方いかんでも 此方やつとるわ

五、褻に着給ふ 御衣を脱げや 穢れもの 尚更褻闕れ ヱロすなアガペヱ

六、生きながら 生きるを止む 粋な矛盾 生の不純ば 死の清純

七、タナトスす ヱロすら拝めん ハレヱシヲン 見詰める程に 盲ひる夫神

八、生きてゐりや 昔の男は 皆僧侶 髪無くせども 神失くすなま

九、親鸞の 三十年目が 出発点 復習す知恵 何処迄も比叡

十、連綿と 背徳の歴史 免罪符 着物脱がしも 御安心あれ

十一、一九八九の 四年四二年 四二六圓 数値吸ふ血の 隠れ身の蓑

十二、田面もゝう 見るもん居らんと 打つ遣れば 萬葉の子ら 記憶ば喪失

十三、隠れ身の 舞台袖より 舞台上 隠す気の無い 直隠しの身

十四、童達 大人の胸を 借りたいか ならば代はりに 真心寄越せ

十五、人生が 四半世紀で 始発点 予習す血縁 何時迄も遅延

十六、聴きゐりし 初恋の声は あえかなり 効率的野暮 科学的不粋

十七、女方 仏壇へ上ぐる 正信偈 始まりは何時か 終はりは今か

十八、声知らぬ 曾祖父母等の 血は流る ならば吾が声 彼等のものぞ

十九、聞こし召せ 見ゆ見ぬを見む 同列に この哥が現に 夢のやうなら

二十、一番に 大いなる数 九と憶ゆ 森林限界 曾祖父が頂き

二十一、モボモガよ (※1)かゝり云ふさけ どんならん 放任主義の もうナヲミズム

二十二、日本語よ 日本の訓へ 日本を學び 外語教員 蚊帳の外行き

二十三、供にせむ 仲好小好 伴にせん 喜怒哀楽が 怒哀は片方が

二十四、大正の 大を詰めたる 乙丑 三島と祖母が 喪ひし浪漫

二十五、鈴蘭に 毒され過ぎては 徒なりと 心置き給へ 月見草こそ


【昭和・二十五首】

二十六、カツ丼を 吐きて斃れし 荷風哉 真つ当に耽美 頽廃全うす

二十七、十二月 彼等見てゐる 譲り葉の 千代に八千代に 父母生まる

二十八、米利堅の 傷なき若さ 父母の春 祖父母の子らが 更に産む吾

二十九、(※2)おとろつしや 余情妖艶 (※3)むせこつちや 耽美頽廃 閾跨ぐな

三十、表彰状 母が少女の 時を知り 引き出し閉づる 不出来な息子

三十一、未だ存る 醜やかなる 童心を 逆に纒ひし レヱズンチヨコ

三十二、衆怨や 灰皿に燻る 紫烟也 両祖父が喫し 父喫しなかつた

三十三、地図が無い 迷ふた道の 路が無い 頼り無いなり お便り出す也

三十四、架空間 軽んず勿れ 史実体 貴様も孰れ メタフアの奴隷

三十五、プラトヲン 希臘の訓へ 希臘を學び 内省郷里 納屋の内向き

三十六、鳴り響く ルシフアの美名 響き合ふ 洞窟の陰 唯一人の翳

三十七、生涯の 友なぞ居らぬ 生涯の 藝それすらも 出来ぬといふに

三十八、取らんとす 寫眞フヰルム 砕け散る 酸化した日々 押し入れの隅

三十九、古里に 友一人無い 訳ぢやなし 故郷自体 無いやも知れぬ

四十、是が非でも 政治信条 顕にせ それ拒む也 向かうに汽車来る

四十一、父母の 丹精籠めた 創りごと 壊すのはまた 作りごと哉

四十二、鎌と鍬 スキゾとパラノ 鋤とビル 稀有にして婁ぐ 私人で以て

四十三、息通ふ 親と兄等と あの空気 家父長の椅子 家具調の瑕

四十四、雑沓に 斃れし草花 無名命 誰も気にせん 誰が誕生花

四十五、安宅町 園町寺町 三谷町 架空友人 想像人夫

四十六、即興詩 生き血巡らす 相関図 親兄弟縦 恋人横に

四十七、三和音 奇天烈宇宙 性倒錯 耽美頽廃 夜露死苦世界

四十八、何番線 一句拈れば 忘らりよか 分岐器がちやこん 然らば君よ

四十九、丑羊 丑射手胎児 大蛇山羊 申山羊対峙 魔女退治巳牛

五十、御祝ひぢや 賀留多遊びや おまへんぞ 昭和百年 祖母が百年


【平成・二十五首】

五十一、幼き日 寝付けぬ夜に 首觸る ギロチン落ちて 頭飛ぶ夢

五十二、坂の下 通つた床屋の 小父さんが 君は眼が良い 役者目千両と

五十三、初恋の 誹り謗り遣る 色事の 一触が女 即発が男

五十四、目潰しの 契り交はして 琴は啼く 師弟の番ひ 一線を越えて

五十五、姫横に 五人囃子と 一枚絵 主演の癖に 台詞憶えぬ

五十六、眼球を 愛でたるアンチ ヲヰヂプス 親兄弟 刺しも潰しもせず

五十七、戯れ合ひに 不良少年の 尻觸る 激怒が前触れ 戸惑ひ微笑み

五十八、僕には無い 丸太のやうな 太い首 叫べばロツク 僕には無い

五十九、首吊の 照々坊主を 首斬の 刑に処す也 野暮用に雨

六十、シヨツトガン 吹き飛ばされし 頭蓋骨 子宮の中へ 涅槃飛散す

六十一、女装子たる 世界を売つて 美男なり 穢されぬやう 火星に棲まふ

六十二、他所の街 こんもり膨らむ 路の上 他人の小母さん 余所の碧天

六十三、死ねシネマ 寝まつとれま 火星のキネマ 金星の吾が 琴線は触れ

六十四、魔の山や 谷間の百合に 嬰れられず 今度摘む薔薇 さくらフリヰヂヤ

六十五、罪業人 罰の代はりに 生享けて 破滅に向かふ 性請けども

六十六、神様は 恋ふる位で 丁度良し 死だけ捧げぬ 詩のみ捧げん

六十七、予想だに 出来ぬ手前が 性欲望 かういふ無学 さういふ無邪気

六十八、睡りやる 太陽目掛け 男根を 突き刺した時 夜は白んだ

六十九、寝バツクと 俯せる君に 逝つてまふ 流るゝ山なり 背なの谷にて

七十、父上よ 放蕩息子が 還ります きつと笑ふでせう 許す赦すまじと

七十一、親孝行 予定調和す 自己犠牲 打破す良い子の 親不孝也

七十二、人でなし ぢつとしとれま 藝術論 人を棄つれば 人より永く

七十三、実存よ 剥いて剥いでも 萵苣の球 信仰憧れ 恋ひ焦がるゝ

七十四、如何心地 時代と同級 世と長ず 三島と唱和 平静と吾

七十五、若かりし 視力を得れば 又候に 星の点描 認める心


【令和・二十五首】

七十六、殺生な 詞が吾の 頭蓋骨 ヲルタナチブたる 共振現象

七十七、両輪に 愛し憎しは 比例して 回り廻るな もう憎しだけ

七十八、他愛無い 身体の一部位 仕草等 僕狂つちまつた 愛撫さすから

七十九、精神や 身体見やうぞ 昇る陽の 若き惨さに 眼を灼かれやう

八十、解けるなら お好きになさつて 頑張つて 敗けてしまへば 私は去ぬ

八十一、この胸を 毒か薬か 揺す振られ 搖れぬより増しと 揺れる五七々

八十二、脚弱り 君の手を引く 事もあり しかして拒み 独り行かばと

八十三、無能故 せぬより出来ぬ 落涙は 啼きし誰が為 嗤ひ除いて

八十四、雪の日に 往かれる人は 多かれど 来る人なく 皆々何処

八十五、可か不可か 廻り遭ふにも この生命 棄つれば容易 今すぐ君と

八十六、好きだつた 浅き夢見し 腕枕 浅き夢見じ 今度は起きぬ

八十七、完璧に 永劫回帰を 果たすなら 地蔵さんたるもの 同衾しよか

八十八、地獄でも 自國でもない 異國にて 過ごした日々の やけに美し

八十九、アフロヂテ 貴女の産んだ 子が堕つる 忘るゝ愛と美 然らばビヰナス

九十、この國を 出た事も無い 現実を 二人の嘘は とびきり麗し

九十一、因縁よ 睨め付けられど 怨念よ 断ち切つたといふ よか倦んざりで

九十二、(※4)いぢくらし 不仕合はせなど 仕合はせて 次ぎ行け次ぎに 祖母は行くだらう

九十三、逆縁よ 思へば往生 近し哉 貴女泣き面 想つては哭きて

九十四、忘れ得ぬ 守り抜くぞと 愛し遣る 少なくとも瞳 か黒し間は

九十五、母上よ 祖先の神話の 母達よ 貴女の云ひ付け 忘れませぬぞ

九十六、純愛の 何割何分 何厘か 秤傾く 傾くな性

九十七、哀楽を 吸ひ取つた哥の 銘々よ 永遠に咲きゆけ 永久に枯れゆけ

九十八、風前に 燈した火こそ 熱く燃ゆ 圧縮されし五 七五七七

九十九、赤らかな コヲド進行 燦らかな 指定も無からう 暗黙知の血に

百、誕生日 命日の者 物同然 生まるゝ森羅 万象へ御還り


(※1)かゝり云ふさけ:余計な事を言うから、ちょっかいを出すから
どんならん:どうにもならない、手に負えない
(※2)おとろつしや:驚いた、びっくりした
(※3)むせこつちや:大変だ、心配だ
(※4)いぢくらし:鬱陶しい、煩わしい


曾祖父“九右ェ門”様に因み今回の百首とは別に祖母へ“九”首の詠を贈った


~~~~~~


己が股ぐら真っ赤な富士山短歌百連大噴火

 言ふべきか、言ひたい事は、云はれるな──言ひ惜しむなや、言へ/云ひ尽くせ。

 宵越しの、銭(ぜに)と詞(ことば)を、持たぬとは──経済原理、使ひ切り/回せ。

 安心せい、使ひ切れぬぞ、より増して──新たな次元、新たし地平。

 解明せい、先生方よ、この短歌(ドグマ)──現に地上で、使ひ得(う)る知で。


中島鉄蔵いや三浦屋八右衛門いゝや葛飾北斎いや/\画狂老人卍が赤富士大噴火


 ドグマッ


2025年1月1日水曜日

令和七年“還来穢国”

明けましておめでとうございます
──a state of the dead to return to this defiled world



 還来穢国



 久し振りに、俺は俺の年を取る。12年振りに、また12年分の歳を取る。頭を伸ばす宛(さなが)ら、ろくろ首並み。



 あと12年と12年で、己が尾っぽまで追い付けそう吸い付けそう。その時は「届いた、届いた、口が、言葉が、口に言葉にした願いが、届いた、届いた」と、その円環構造を祝ってやるのだ。だからそれ──永劫回帰/ウロボロす──迄は、にょろり・にょろにょろ・にょろりんと。還る暦(こよみ)の60年、あと12年と12年で。



 ほらもっと、ちゃんと活(い)きてくる、旧年!!みなさま旧年中は大変お世話になりました。本年も宜しくお願いいたします。



 2025、Are you burning?


2024年12月31日火曜日

令和六年“榑木之地”完了

目一杯生きるというのは、まず年を重ねるという事だが、これは幾ら生き急いだ処で、人は一年で一歳しか老いる事が出来ないのであるから、おいおい老いてゆく時の流れに身を任すとして、もう一つ目一杯生きるのに、誰しも死のうとするのであるが、これは生きる究極の死、死ぬの対極の生、そうだ生きる究極の死──ゆらゆらタイトロープふらふら──綱渡りの快楽で、決して死んではならぬと云いつつ、自ら死ぬ死ぬ死んではならぬと、そうだ決して死んではならぬぞと、加齢の縦軸と並行して進捗(しんちょく)する、華麗なる横軸の並行作業、ないし平行とは結局これとそれとが延々交わらぬ為に、どんどん独りになるであろうが、この線において、その面において、目一杯生きたという事になるだろう。

 孤独や絶望の実(じつ)は、人類や歴史の常(つね)にちやほやされ、何にも寂しくない様に、何なら賑やか過ぎる位に、嘘っぱちの本当で、孤独かい絶望かい死にたくなんのかい?そんなら良かったぢゃない!こうして、どう転んだって生きてゆけるのだから、そう環境/状況を設定したのであるから、甘く切ないだけの物語ぢゃないか、誰よりも甘ったれて、彼よりも切なる願いをぶち撒けるだけの話ぢゃないか。

 ほらもっと、ちゃんと死にそうになる、来年!!みなさま良いお年を。



 今年も益々有難う、令和六年“榑木之地”完了。


2024年12月30日月曜日

ノート2024


高橋新吉を読んだ事は無い。「ダダイスト新吉の詩」を一頁(ページ)も繰(く)った事が無い。だのに、滅茶苦茶に影響されているのは知っている。

 父方・母方の祖父、祖母の生い立ちや馴れ初めをよく知らない。しかし、よく知っている父、母より自分に似ている気がする、それと同じ道理で。つまり、新吉に影響されて“ダダさん”となった中也の詩は(発表されたものも未発表のものも)よく読んだし、よく知っている。その二番煎じぢゃ仕様が無いから、逆張りをして新吉に似てしまうのだと思うし、祖父、祖母の隔世遺伝を強く意識してしまうのであろう。


「ダヾヰスト憲宏の詩」
by Nori MBBM

1. ヰントロダクシヨン

山羊と山羊、山羊の詩なら、父と母

“ヲギヤア”
──否
“ヲンギヤア”
──否
“(※1)てんぽにゝんがし”
──三たび、否

“ダヾヰスト憲宏の詩”


2. 洒落た人生

例へば五月一日に生まれし人あり
その人は何でもかでも結び付ける
語呂合はせの要領で
こい、来い、恋とか

日々その選択この衣食住を為すに
彼の男は何でもかでも結び付ける
語呂合はせの容量が
一杯/\になるまで

日々その洗濯この人間性を成すに
彼の女は何でもかでも引き剥がす
恋をしまくるのなら
失恋もまたその分ね

春と修羅、春と氷柱、春とツアラ──ダヾはシユウルに奉る

シドは五月、ダリは五月
ボクは五月、だから何?
R. マツト──1917──泉
ダヾは一切を否定するんだろ?
ダヾはダヾをも認めないのだ!

ただの相槌、ただの挨拶
ただの木馬、ダヾは何?
R. マツト──1917──泉
といふ事は、木馬は後ろだな?
木馬ならこの目で確かめたい!

ダヾ無意味、ただの意味
無意味といふ意味が意味
R. マツト──1917──泉
ダヾとは違ふのだよ、ダヾとは
ダヾの中で……ダヾを忘れた……

春とツアラ、ツアラトストラは、金の星──牡牛と天秤を司る


3. 祖父のコヲト

君の誕生日が私と一緒なら
特に言ふ事は無いのだがね
大体が違ふから説明の為に
こんな詩作を試行錯誤して
伝はらんもんを伝へようと

あつ、これ?手前のノヲト

草書体の己が生ひ立つ経歴
でも君にや読めないでしよ
行書体の筆が匂ひ発つ偏歴
これでもう読めるかしらん
楷書体の愛が奮ひ勃つ履歴

あつ、これ?祖父のコヲト


4. 道化・動機・放棄

自意識過剰や自惚れ屋
自信家にならなきやな
詩作は出来ませぬとな

“こんなに大きくなつたのねゑ”

散策をしながらですな
詩を認めるにネタ探し
これが見当たらぬとな

“もう今から将来が楽しみだわ”

最後の切り札手前だな
ほら俯瞰鳥瞰宜しくな
詩作が手前を創り出す

“また一歩、死に近付いたのよ”


5. 倦怠を握られた男

恋喰らつた時分
眠れないんでさあ
肌荒れて血色悪いでさあ
握られて抜かれまくつてさあ
KAMI抜けて老けて見られてさあ
もう恋人の居る訳も無いんでさあ

しかし晴れやかでせう
身も心も軽やかでせう
でしよう皆かうでせう
ノスタルヂツクでせう
勝手に懐かしむでせう
昔は平和だつたでせう

いや、それが昔の方がね……

もう恋人の居る訳も無いんでさあ
髪も抜けて老けて見られてさあ
握つては抜きまくつてさあ
肌荒れて血色悪いでさあ
眠れないんでさあ
恋喰らわぬ自分

自分以外に握られた倦怠はもう
手に負へぬ!


6. 割愛の儀

永続する恋は無い!
──悲観論ですか?
いや、楽観したとて愛の奴が!
──邪魔するんですか?

……話をまとめませう
つまりかうです
一、恋は永続しない
一、君は恋をしてゐる
一、だから君は永続しない
──それは間違つてゐます
私が恋してゐるではなし
私が恋されてゐるのです

君もさては愛の奴か?
──それはわかりません!


7. 非愛玩動物

柴犬が好きなのね
きつね色の愛い奴
黒目がちで全く今
何考へてゐるのか
見当も付かぬ奴よ

今すれ違つたのね
飼ひ主とも私とも
誰とも違ふ方向を
誰も居ない方角を
見つめてゐた奴よ

問ひ質してみたい
何が見えたのかと
何も云はないでと
何も言はない奴よ
三角耳の賢い奴よ

三角顔の愛い奴よ
三角形の不思議よ
私の底辺と高さを
掛けた処を割つて
でも分からない!


8. 割礼の儀

一献、二極、三昧、四韻……

歴史は繰り返す、と
そんな当たり前の事を
埋没してしまつたのか?
自然、当然、当たり前にね

今に始まつた事ぢやねゑぞ
恋とか愛とか五月蝿いねゑ
今に始まつてやつちまふぞ
怠けるもんか一日足りとも

当たり前の事を何故かうも
皆して有り難がるんだ?
有り難いなら滅多にね
喜んではゆけぬ、と

五鈷、六界、七条、八重……


9. 五十歩百歩千歩万歩

食へ──
(※2)めんでゑこと、退屈なこと
言つて自ら酔つてんだから
世話無いわ
そんな異論あり

喰へ──
原始人サヰドからデヰスり
云つて己が酔つてんだから
世話無いわ
こんな反論あり

その言葉、論争自体が文明の自覚を持たないで
この言葉、論争自体が以前の立場を取らないで

九衛──
めんでゑこと、退屈なこと
語つて我ら酔つてんだから
世話無いわ
みんな持論あり

全ては歌詩と変はらんから


10. 太陽さん/\月らん/\

と或る男の告白──
私が魚介類を口にしませんのは
生ぐさゝといふ事にしといてよ
でも食べられないのは本当です

(その頃、天上では)

太陽さん/\月らん/\
異論・反論・持論も無い

太陽さん/\月らん/\
陰陽・引用・関係が無い

太陽さん/\月らん/\
詩人・微塵・関係が有る

全ては月の光と大差無いから


11. 不燃ごみ/有害ごみ

と或る男の告白──
私が魚介類を口にしませんのは
海へと帰つた時を考へての事よ
でも土に還るつもりだし嘘です

(その頃、地上では)

燃やすなら恋が良いよ
燃やせる内の恋が良い
燃えた後の煙で咽るが
燃えた後の余韻も良い

愛とか欲など燃えんもんは燃やすなや


12. 十二行詩

この詩でもつて十二編とな
もう一編は余計でせうなあ
どれくらい余計かと言ふと

あ、さうだ、今迄の十一編
現代の物理化学の見地から
検討してみてくれませんか

それで詩の一編でも出来て
芸術に値するか見てみたい
学問してみたかつた処でさ

さうかうする内に十二編目
何も語らぬまま終わりそう
こりや余計だつたかしらん


13. 呪ひの13連装カノン

人間関係を最優先としないまでも
無下にはしてこなかつた

しかしこゝに作品だとか並べると
無関心でしかなかつたと

人間関係にきつと無関心であつた
人の事を嘗めてゐたのだ

詩や随筆や小説や詞曲の小節やら
書いてゐると不満が残る

その箇所どうにかせんとゝ足掻く
書き足し継ぎ足しをする

これが人間関係の不満の箇所なら
いつそすぐに削除をする

そんな事しない方が良い気もする
作品では一切やらんから

或いはこれを正当化する為にだな
作品で断捨離をするのだ

あゝ恐い怖いと躊躇するのはだな
作品関係が最優先だから

ダブルスタンダアドの二枚舌だな
このまゝぢや最低だから

しかしこんなあけつぴろげにだな
みな吐露して作品だから

やはり人間関係より作品が大事か
痛くも痒くも無いもんな

フアツシヨン孤独だ寂しくないだ
呪はれた13番目だもんな


14. 読書の時間です

他愛の無い話をされて怒つてゐるんぢやない
他愛の無い話はむしろ好きだ
他愛の無い話の振りをして
他愛の有ろうとするから

恩師でもねゑに説教せんといてください
さもなくば講釈を垂れます
全く一編の詩にもなりやあしない
全き詩人がどうにか読ませてみせますが

全て詠ませてみせますとも


15. 詩作の時間です

むかつくことがありすぎて
詩作どころぢやあない
綺麗な言葉を冷静に選べない
綺麗事を言ひたいんぢやあない

それぢやあいつとおんなじだ
詩作どころぢやあない
神の御告げや御神託あたり
その実コピヰ&ペヱストばかり

そんなにヲリヂナルがうらめしいですか?


16. 寸劇“大言壮語”

そのまゝ大口を叩いとれ
間違つても弱音は吐くな
余計胃にむかついてくる
そこはせめて強気で居ろ
同情どうぞ/\結構だと
飲み込め/\呑み込んだ
名言で飲み込もうと悲劇
名言に呑み込まれる喜劇

どんな言葉も君よりかはでつかいのでした

脳髄や言語による大勝利
弱肉強食の断絶と転覆と
身体能力に超越的な態度
肉体は従順に劣化します
脳髄や言語による大誤算
老若男女の断絶と転覆と
自然摂理に超越的な態度
精神は汲々に烈火します

どんな言語も君よりかはちつさいのでした


17. レトリツク游泳法

海だ愛だ
いや溺れてみたかつた
でもそうすつと
海だ愛だ
分からんくなる

音楽だ文学だ
分からんくなつた試しがあるか?
まだ溺れてないんか?
すごく浅いんか?
アサヰンされてないんか?

そのコヲド進行
──潮の満ち引き
この叙述トリツク
──恋の駆け引き
黙つて泳がせてください

“君の実家の方は魚の旨い処ぢやないか?
しかし食へないなんて勿体無い!”


18. レトリツクU.F.O.

焼きそばをよく食べては太つてしまつた詩人
焼きそばで太つてしまった詩人はよく食べた
焼きそばの詩人はよく食べて太つてしまつた

“悪いのは私ですか焼きそばですか?
しかし食べないなんて勿体無い!”


19. 文字の羅列の錯覚

こゝまで聴いてくれてどうも有り難う
さぞ人の境涯といふものに想ひを巡らせた事でせう

詩人気取りが思ひ馳せる訳ねゑだらう
単なる文字の羅列の錯覚ぢやねゑか

さういふ声もあるかと思ひます
しかし一つ本当があるとするなら

たとひそれが文字の羅列の錯覚だつたとしても
錯覚させるに想ひが必須なんであります

どうやつても境涯がいるのです


20. 666

あの象徴詩ときたら
何一つ分からねゑのに
何もかも囚へようとする
呪ひつてさういふもんだな
そしてほら見て御覧なさいな
あの肖像画の闇が染み付いた顔

いや写真
いやらしい
棒とレヱルの
観念連合用ゐて
モチヰフ異化作用
高速上下前後運動す

ボヲドレヱル
ボヲドレヱル
ボヲドレヱル
ボヲドレヱル
ボヲドレヱル
ボヲドレヱル


21. 北陸道にて

コブウヽン
コブウヽン
コブウヽン

爆音にせんと逝けぬカタルシス
語らぬで死すよりカタルシス
1969年は何も無い年だつた

“ヰギイは3度、飛び込みました”
“ピヰナツバタアを塗りたくつてゐます”
“ヰギイが、また、消えました”

デトロヰトの一風景を
何故に懐かしく思ふ
1989年は何も……

“ソニツクブルウ、見せてやれ”
“ガラスのミツシヨンと揶揄された”
“アクセル、ベタ踏み、6速へ”

フシユンツ
フシユンツ
フシユンツ


22. 404

小松から馬込文士村
馬込文士村から高円寺
高円寺からまた小松

一向に辿り着けないぞ
ミシガン州まで飛行機だ
旅客機、この胸目掛け

脳内妄想まで飛んでゆけ
ピヰチネクタア一口飲んで
幼少期まで帰つて来いよ

ゴクリ/\頭に投影される
映像は幼稚園の頃と桃の香り
目の前の君が何と云つても

僕の言葉しか響かない届かない


23. 雌雄詩曲

一度やつちまへば自分のもん
自身のもんになつた気がして
悲喜交々の胸騒ぎはおさまる
憧れた習慣を眺めてゐられる
しかし哀しいかな、誰の仕業
それ何処まで行つても君の詩

真面目なもんで
どんな些細な事も
大事にしては考へた

何度やつても誰のもんでなし
他人のもんになつた気がする
悲喜交々の胸騒ぎはたえない
慣習に憧れて眺めてゐられぬ
しかし嬉しいかな、私の仕業
これ何処まで行つても私の曲

不真面目なので
どんな重大事をも
茶飯事と受け流した


24. 偉大はかくも卑小なり

神様がどれだけ偉大かを語るに
仏様はさうですかとただ頷いた

偉大いふものは卑小に見えるに
偉大より偉いのは寛大と思つた

人様がどれだけ偉大かを語るに
貴方様は卑小で居れば良かつた

誰かを食つて大きくなつたもの
丁度いま喰はれては小さくなる


25. 青年の特権

煙草吹かすばかりで
何も言はぬ女
青年ハンスとう/\気付かず
踏み切れず結ばれず
魔の山

縫物織り込むばかりで
何も云はぬ女
青年フヱリツクスとう/\気付かず
踏み切れず結ばれず
谷間の百合

暗黙の了解は婦人方の前提
言はぬで云ふでしかし
青年ノリヒロとう/\気付いて
踏み切つたが結ばれたが
山堕ちては谷間擁く

そのまゝ青いまゝ
悶えて居ろ
否が応
じき色褪せる
分る、解る、判る


26. 壮年の特権

中世つて中途半端だなと思うだらう
現代の方が徹底的で容赦ないと思う

原始から徹底してあゝ為つた時代を
原始から徹底してかう成つた時代と

山あり谷ありのどちらがどつちだろ
中世の方が山で現代の方が谷だらう

中世は地位だ名誉だ此処に極まれり
現代の方が原始に帰る中途半端だろ

身も蓋も無い性欲だらう


27. 老年の特権

多様性、多元論
多角形、多面体
多義的、多細胞

嘘嘘嘘嘘、単細胞
日本を出たら日本の良さが分かり、年を重ねたら年の……
単に好きだ、純に嫌ひだ

閑かにせい、話になりまへん
故きを温ねて新しきを知れば、以つて師と……
嘘嘘嘘嘘、単細胞

幼年の特権を取り戻せ!


28. 詩人の特権

文武両道、完璧過ぎて
魅力の無いのが人生の下手

欠陥人生、偏り過ぎて
魅了されるのが生活の下手

人生の上手は、文武に欺かれるな
生活の上手は、人生に騙されるな

もう悪い事は言はない
セツクスに迷はされるな
ドラツグに惑はされるな
ロツクンロヲルに踊らされるな

もう詞しか云はない
夢は無限大!!
何だこの嘘くさゝ
有限が何言つてんだ?

私は常に嘘を言ふのだ
この文言も嘘に含まれる
さもなくば事実も云はれぬ
これだけが真実であるとして


29. 対煩悩五鈷

用も無いのに人形を買つた
英国の近衛兵の
赤いナポレヲン
そも/\人形の用つて何だ

洋服の、冷蔵庫の、鍵穴の
必要の不可欠の
要請の不可逆の
無えのが有り得ぬつて事は

んなもの忘れ得るつて訳だ
詩集は白い紙の
初恋は黒い髪の
トラウマ忘れ得ぬつて訳だ

どちらかだけぢや不満です
赤いナポレヲン
洋服の、冷蔵庫
どちらもあるから矛盾です

んなもの行き難い真理です
詩集は白い紙の
初恋は黒い髪の
トラウマ生き難い心理です

情け無い──君が居ないと世界を帯ぶれない


30. 日々是一献

君はまるでワアグナアだな
偉大な音楽家の方ぢやなくて
フアウスト博士の助手の方のだ

人生の悩みは無さゝうだな
研究の悩みは沢山ある様だが
人間をそこから眺めて居なさい

つひに人間を創り上げたか
君たつた一人で完成させたか
ただし再び独りになるだらうな

試験管ベビヰも自我を持つ
人間界を求めてガラスを割る
君に似て彼もまた独り身となる

プラスもマヰナスも無いさ
イコヲルにしたいんだらうな
でも君は1を倒した罫線記号だ

有り難う──君が居ないと世界が締まらない


31. 梯川から来た男

ヰントロはみな“ヲギヤア”ですか
“ヲンギヤア”で良いんですか、君
さもなくば言葉を覚えてください

あんまり真面目なもんで
不真面目に怯えてみせる
あんまり真面目すぎたら
不真面目なんぢやないか

恥ずかしい処を見てください
実は何も恥ずかしくありません

不真面目に違ひないだろ
あんなに真面目な顔して
不真面目で居られるのは
あんなに真面目な人だけ

立派な部分をご覧に入れてください
実は立派の一欠片もありやしません

このバアスは一体なん/\ですか
言ふ事を云はれた事と打ち消して
リバアスですか?いやリバアです

この川を何回見たろうか
運が良くても百回くらい
たつた百回たつた百年
──哀しいか
ゆうに百年ゆうに百回
──楽しいか

髪髪髪、抜けてゆくばかりの精魂
そいぢやあ/\ドス黒い物の哀れ
また来いや、待つとるぞ

あの川を何回渡ろうか
運が良くて一回くらい
たつた一回たつた百年
──怒れるか
ゆうに百年ゆうに一回
──喜べるか

神神神、惚けてゆくばかりの性格
(※3)じよんなあ/\霊験あらたかなれ
また来いや、待つとるぞ

自づから安宅の浜辺に漂着しけり
死んだらどうもかうも無いものを
生きる方がどうもかうも成らずで
生きながら死ぬのも有りだらうと
死よりかどんな事も為るだらうと
自づから安宅の海の藻屑と生りて

紙紙紙、白けてゆくばかりの生活
やつたあ/\また新たに書き殴れ
また来いや、待つとるぞ

KAMIKAMIKAMIKAMIKAMIKAMI……


32. ゴヲストノオト

こゝからは蛇足です
のんびりと過ごす余生です
さういふ生き物になりました
てく/\と歩く滑稽な
巳年の己がやつてくる

こゝからは日曜です
何にも予定の無い日々です
毎日が日曜みたいなものです
段落だ行間だ知るかよ
知るかよと知つてゐる

歓喜に終はる傑作だ
悲哀に沈む名詩編だ
だから一つ前辺りで
終はらせておけばよ

しかしふざけたくて
さうだ終はらなくて
人生とか生活の奴等
奴等ふざけてゐるよ

こゝからは休日です
だらりんと過ごす死後です
さういふ憑き物になりました
ふら/\と漂う笑止な
禁忌の己がやつてくる

こゝからは蛇足です
何処にも前例の無い蛇です
毎日が散歩みたいなものです
頭韻だ脚韻だ知るかよ
知るかよを知つてゐる


33. 異端者の可笑しみ

悲劇の中でこれは悲劇だと叫ぶ
──これが悲劇になり得ますか
──それは喜劇になり得そうだ
悲劇の中で悲劇への言及を禁ず

喜劇もまた然り喜劇だと叫ぶな
──そんな笑ひで笑ひを獲るな
──こんな笑ひで笑ひを得るな
喜劇における汎ゆる喜劇も禁句

三島もニヰチヱも耽溺してゐた
──希臘の知をいま一つ掴めぬ
──希臘の地をもう一つ踏めぬ
ヘルデルリンでも朗読しなされ

ヒユペヱリヲンでも読みなされ
──新宿の紀伊國屋にあつたよ
──万引きしたら横尾忠則だよ
岩波から復刊されてゐたんだよ

河出もバタイユを復刊なさいよ
──丸の内の丸善にもあつたよ
──檸檬爆弾の梶井は京都だよ
空の青みが古本屋だと高いんよ

悲劇の中でこれは喜劇だと叫ぶ
──私の悲惨な毎日は愉快です
──私はさう思ひませんが神は
喜劇の中で悲劇への言及を禁ず

角川も早くバタイユを
生田訳のを!


34. 凹凸フアツク完璧

希望ばかりか絶望まで分捕られた
皆が思ひ付く様なものは皆
呑み明かした朝の倦怠や
六畳一間の寂寞や孤独
痴情のもつれや自殺未遂
命の全て漏れ無く在り来り
私なぞが演らなくとも他の誰かが

六畳一間の換気や歓喜
呑み明かさぬで眠れぬぞ
詩作における早朝の勝利や
昼過ぎては夕方が二度目の朝焼け
誰にも共有されぬ時間軸や
未だ形而下に見られぬぞ
私なぞの謎の偉業の業

独りでにずつぷりと嵌る人間の業
お天道さまが見てゐる

ほら眼に見えるもの
これにて方針立つ
何もかも勃つ

「お前やつとか」
「嗚呼あなた遂にやりましたね」
「やりましたよ」

上から声する
神なんかぢやない
ほら目に視えるもの

君だけが目撃してゐる
皆居なくなつちまつたが君だけは

完璧完璧完璧完璧


35. コンクルウヂヨン

山羊だ山羊、山羊の歌から、在りし日の歌

行き過ぎた保守は革新と同じく
──否
行き過ぎた革新も保守に違ひなく
──否
行き過ぎた保守の革新は保守に等しく
──三たび、否

“ダヾヰスト憲宏の詩”


(※1)てんぽに:桁外れに、大袈裟に
にんがし:賑わしい、騒がしい
(※2)めんでゑ:格好悪い、みっともない
(※3)じよんな:唐突な、奇妙な


~~~~~~



 原稿用紙四十五枚程を三日で一気に書き上げたので、止め処無き意識の濁流に逆上(のぼ)せてしまい、推敲時も何が良いんだか悪いんだか判らなくなる位だったが、今は打ち上げられた彼岸にて、呑気に足組み横になり、後書き気分でこれ叙(じょ)する、世界で一番腑抜けになった。取り急ぎ三十五編、齢(とし)の数だけ詠(えい)じてやった。



 そうだ常に念頭にある、手前のルーツが頭の片隅に。父方の祖父、祖母、母方の祖父、祖母、更にさかのぼって上の方の人、人、人。いつまでも大切に、忘れないでいたい……ダダイズムと対極の保守的な考えかもしれぬが、ダダを破綻させるのがまたダダであり、これぞダダの最たるものと考えるが故、今度ダダイストを自称した。



 全ては詩集を編(あ)む為の、全き詞曲を纂(あつ)める為に──破綻破綻破綻。私は読みますとも聴きますとも、私に詠ませますとも訊かせますとも──ダダダダダダ。私は/私に、主語から目的語に成り果てた──破綻破綻破綻。ドグラ/マグラ、単なるドグマぢゃ──ダダダダダダ。



 ブルトンが宣言した百年後に、憲宏が先言(せんげん)した百年前に。憲宏が残したノートの百年前に、中也が遺したノートの百年後に。



 “習字ぢゃない書道だ”、“真っ直ぐに書け、ド真っ直ぐだ”とは高校の恩師(書道の先生)より、サムネの題字の為、十数年振りに書道をしたが、誰にも縛られない書道は──しかし何度も上記、恩師の言葉が脳裏に去来した──家で独り創作の為の書道は、あっという間の二時間で、それはそれは心底楽しかった……年の瀬に新しい趣味が一つ増えたかもしれない。