2021年1月22日金曜日

それはもう牛の歩みで

偉大なるロックスターのデヴィッド・ボウイ曰く、「溢れんばかりのポップセンスを素晴らしく悲しみの感情と結び付ける、彼はアメリカの宝だ」と。ギターロックの歴史を今の今まで塗り替えてしまったカート・コバーン曰く、「地球上で最高のソングライターだ」と。



 そのカートが1992年のMTVアワードで“ハイ、ハウ・アー・ユー”Tシャツを着ていたことにより、名前すら知らなかった若者の間でも一躍有名となった天才宅録シンガー、ダニエル・ジョンストン。私自身、はじめて聴いたその日から好きを超えて「これは俺だ!!」となり、以前にサウンドクラウドの方でも今回とは別曲の日本語カバーをアップしたことがあります(よかったら聴いてね)。
 
 ダニエルのアルバムを聴いた後は必ず、なんでロック演ってんだっけ?なんでバンド組んでんだっけ?なんでギター弾いてんだっけ?なんで歌ってんだっけ?なんで音楽やってんだっけ?と根本的な諸々の問い質しが始まるのですが、それは彼が私よりかそういった疑問を持たないで、直向きに音楽を演り続けていた為である、と思われます(良い悪いの話ではなくて、向き合い方の違い)。
 

 そんなダニエルの真骨頂は、“ローファイの極致”とも云うべき不明瞭な音質のカセット形態で発売された80年代の作品群になるんだろうけど、それより少し垢抜けた90年発売の11作目「1990」が個人的に一番好きなアルバムです(ダニエルの精神状態は最悪だったみたいだけど)。これもローファイなデモ音源並みの音質と言えばそうなのですが、スタジオレコーディングやライヴレコーディングの寄せ集めであるが故、今までの不明瞭な宅録よりかは聴き馴染みの良いサウンドで、一番心地好いのです。

 それより後に出た94年のメジャー盤「ファン」まで行くとやり過ぎで、ダニエルの脳内にある雑然とした夢の箱庭を明らかに区画整理してしまった感があって、ダニエルの曲を聴いているというより、あるインディーバンドの曲をダニエルがゲストでボーカルだけ演っているみたいな寂しさがあるのです。普通に良いアルバムなのですが、ここがダニエルの桃源郷か!とはならん
 
 従って今回の我がテーマは、90年のスタジオレコーディング作品「1990」の一番心地好いアレンジで、83年の宅録カセット作品「ハイ、ハウ・アー・ユー」収録の“ウォーキング・ザ・カウ”を演るということです。



 但し、此の私が演ったものですから一筋縄では行かず、イメージとしてはヴェルヴェッツのモーリン・タッカーのリズムで、クイーンのフレディーによるオペラが上演されて、主演のボウイとボランがオクターブ歌唱を披露するという、どうやったってグラム歌謡メタル野郎です

 演奏は基本的にシンセ、トイピアノの弾き語り。冒頭の牛の鳴き声の後の情けないフレーズは、トランペットの音色。原曲だとダニエルのコードオルガンが全編にわたって使われているらしいので、私は異なる音色の異なるアプローチでトライいたしました(ただ原曲とかけ離れ過ぎるとそれはそれで白けてしまうので、トリビュートアルバムの中のスベッてる曲みたいにならぬよう、最終的にはオルガンの音も全編に渡って重ねました)。

 それとトイピアノだけだと寂しかったので、件のモーリン・タッカー的なリズム、パーカッションとして、私の最初のバンド・MBBMの解散ライヴで使った黒いタンバリン(ミッシェル風に言えば“ブラック・タンバリン”)をチャカチャカチャカチャカ振りました。我がトラックについては以上で、原詩と日本語訳詞もいつも通り此処に置いておきます。


「Walking the Cow」
作詞・作曲:ダニエル・ジョンストン

Try to remember
But my feelings can't know for sure
Tried to reach out
But it's gone

Lucky stars in your eyes
I am walking the cow

I really don't know how I came here
I really don't know why I'm staying here
Oh, oh, oh-oh-oh
I am walking the cow

Tried to point my finger
But the wind was blowing me around
In circles
Circles

Lucky stars in your eyes
I am walking the cow

I really don't know what I have to fear
I really don't know what I have to care
Oh, oh, oh-oh-oh
I am walking the cow


日本語詞:Nori MBBM

思い出してみても
気持ちの形わからない
手掛かりは
消えた

Lucky stars in your eyes
I am walking the cow

何でここに来たのかな
何でここに居るのかな
オーオーオオオー
I am walking the cow

指差してみても
風の在り処わからない
サークル
さあ来る

Lucky stars in your eyes
I am walking the cow

何で怖いのか分からないし
何で気にするか分からないし
オーオーオオオー
I am walking the cow

Lucky stars in your eyes
Lucky stars in your eyes

Lucky stars in your eyes


 
 最後に、ダニエルのドキュメンタリー映画「悪魔とダニエル・ジョンストン」を観たことはありますか?貴方の人生にも何らかの作用をもたらす様な(きっと毒か薬となる)最高の映画なので、よかったら観てください。最高の音楽ドキュメンタリー映画で他に思い出すのは、ミチロウさんの「お母さん、いい加減あなたの顔は忘れてしまいました」ですが、あれはダニエルと正反対の方へ突き抜けた衝撃があって、実家の玄関で“お母さーん、お母さーん”と連呼して、ミチロウ母が出て来てから親子で語り合う流れはめちゃくちゃ脳裏に焼き付いており、ずっと忘れることが出来ません。

 話をダニエルの方に戻すと彼はどんどん童心の方へ突き抜けて行ってしまい、アメリカのご長寿アニメ「ザ・シンプソンズ」の作者マット・グレイニングと楽屋で話した後に“やったー!!”と子供さながらに全力で喜ぶ姿は、愛くるしい以外の何者でもなく、自身からポーズとか染み付いた癖や余計なものを取っ払ったら俺もダニエルになるんだろうな、と反省してしまいました(これから生きて行く上で不便が多くなるので、そんなことはやっぱりしないんだけども)。而してミチロウさんもダニエルも生涯、心の友であり続けることでしょう。いつも心の両端にぽつねん、と住まわせておきます。迷ったら話しかけに行く関係、詩集やCDレコードによってね
 


 改めまして、お誕生日おめでとう、ダニエル・ジョンストン!!
 
 あなたの誕生日が大好きな“マウンテンデュー”で溢れ返ります様に。
 
 May your birthday be filled with “Mountain Dew”.
 
 Your friend,
 2021.1.22(Fri) Nori MBBM
 
 
~~~~~~
 
 
 そういえば、幽霊を見たことは人生で一度もなかったが、金縛りには数回遭ったことがある。端からはどちらも自業自得であろうが、此の私以外にも歴とした中国の古典、或いは其れを翻案した中島敦の短編に、同様の怪奇現象を見つけることが出来る。
 
 中島敦の「牛人」と云う昭和17年(1942年)の作品を御存知であろうか(「山月記」は学校で読まれた人も多いと思うが、こちらは“虎”でなし“牛”)。部屋の天井と人間の表情に寄り添う黒い牛に似た者、その優しさと残酷さの比例関係、因果関係を読んで見てほしい。そして改めて、私は私の金縛りを思い出す。
 
 幽霊を疑うことは一度もなかったが、奇怪を嘲笑う夜には必ず動けなくなったのである。今となれば、私こそが黒い牛なのです。目の周りが凹んで、獣の様に口を尖らせた、せむし男なのです。形態を変えないで、中身は掏り替える、黒い牛なのです。令和三年の丑年に、それはもう牛の歩みで

 
 それでは、次回のカバーMVで、いずれまた!!(もう1か月ほど金縛りさせてネ……zzz)
 
 

2021年1月1日金曜日

令和三年“気韻生動”

明けましておめでとうございます、丑年



 気韻生動
 ──being animated with grace

 生きる作品

 歩く絵画

 食べる散文

 眠る物語

 起きるポエム

 令和三年のテクスト

 我こそは


 本年も宜しくお願いいたします


 2021、Are you burning?