2021年11月25日木曜日

役者二種類どちら様

餓鬼篇より


そして私の心はふるえ上がった 私の羨むこの大勢の人間が
哀れ 口をあけた奈落の底へ一目散に走りこみ、
いわば、自分自身の血に酔って、とどのつまりは
死より苦痛を 虚無より地獄を選んでいるということに!
-シャルル・ボードレール

 この人生Aにおいては、役者Bである。また役者Aにとっては、人生Bとなる。

 今日は昼飯を我慢して、400円で思想を買った。思想?何処(どこ)に売っているの?あゝそうかいそうかい、ならば仮面で良いよ。

 冷静な君は、仮面を着けた君だ。仮面を着けた君は、無知な君だ。無知な君は、冷静で居られるはずも無いのに冷静で居られるから、周りを冷静で居られなくする。君は冷静の詐取(さしゅ)に成功する。仮面の一枚が成功させる。軽薄な人間だ。空洞の役者だ。君だけが知らないのに、知らない事のある種、冷酷さで、執着の無い冷淡によって、君は知りかけているもの──殆ど大半がこれに該当する──より尊敬されるのだ、人としての尊厳を今日も保つ事が出来るのだ。改めて君の公式を掲げよう!!冷静な君は、仮面を着けた君だ。仮面を着けた君は、無知な君だ。無知な君は……冷静な君だ。

 数年は色事(いろごと)を我慢して、年数の分だけ仮面を揃(そろ)えた。仮面?如何(どう)して生きて居られるの?あゝそうかいそうかい、ならば役者で良いよ。

 何時(いつ)まで経っても落ち着きがないのは、捥(も)ぎ立ての感動を今に見て欲しいから。淡々と分かった風でニベもない顔は、誰か様のモノだから。人間らしい、いや人間くさい。俗(ぞく)に塗(まみ)れた奴が語る希望ほど絶望に近く、ニヒルは今日も大人気と来た──鏡子(きょうこ)と四人の私。

 その六百二十頁(ページ)程ある小説の百九十四頁目に、仕事で手洗いし過ぎて乾いた小指の何時か切れた傷口が触れて、二つの小さな黄色い染みを付けた──これぞドキュメント、逆説的と云わんばかりの不道徳な教え。

 断眠(だんみん)に応じて夜な夜な、或いは遅すぎる朝に幾度となく開く表紙は老いた鴎(かもめ)の如く、綺麗に重ならず毛羽立(けばだ)ち、だらしなく外向きに羽搏(はばた)く癖を持っていた。決して彼方(かなた)へ飛び立つことなく、顔以外しか見つめられない身体の様な記憶に成る。それが消失した後も紙面を割(さ)いて、何時かの今日、文字通り腹を割った言葉に為(な)る──檄文(げきぶん)。

 その五十一年前の今日、誰からも選ばれなかった誰かの理不尽に於(お)いては、神の裁き、審理(しんり)の由(よし)を的確に述べる背信(はいしん)の書となる──憂国(ゆうこく)。


 即(すなわ)ち、この世には四種類の人間が居るらしい。二種類の役者と云っても良い。二種類の役者の行き違いが、大まかな四種類に別(わ)けられるらしいのだ。

 まず、役者として重宝(ちょうほう)されるのは空洞の人間である。軽薄の生き物と云っても良い。確固たる信念を持たない事の信念である。信念の空き地である。気軽に他を欺(あざむ)いて、自ら滅ぼす事をも厭(いと)わない。厳密には、その空き地として利用してさえ呉(く)れたら良い。喜んで売国(ばいこく)する。喜んでコメントする、振りをしてコメントにコメントをさせる。主義主張する、振りをして主義主張しないものを主義主張に丸投げする。焦点(しょうてん)の合わない眼を自由だと信じている。情念を含む生き方は鮮度に限りがあるから、なるたけカラッと生きて居たい。異性は適宜(てきぎ)、適当に仕入れようではないか。幸せとは詰まり、仕合わせに他ならないのであるから。

 そしてもう一方では、一杯に満たされた人間が居る。何に?自己同一性に。紋切り型と云っても良い。年齢はその全長で、経験がこの直径を表す金太郎飴。松田優作/ラモーンズ。おい説明しろ。へい/ほう、レッツゴー。臨機応変って旨いんか?やってみいひんか?なんぢゃこりゃあ!生きてりゃ色んなナメクジを見るハメになる。のっぺらぼうばっか。学校や職場で、便器の底の様な面(つら)を向けられる。打算された滑(ぬめ)り気に放尿したくなる。尿酸(にょうさん)や陰惨(いんさん)かけてやれ!奴らの好きな渇(かわ)きと共に匂い立て!大根役者で上等、スリーコードないし三分で充分。死んだら初めて成ってやる、やっと貴様に為(な)ってやる。貴様は不気味な洞窟(どうくつ)だ、面白半分に記念撮影してやろうか?まだ心霊現象の方が、ずっと可愛いよ。だって貴様に心霊も寄り付かない!!とことん血迷った奴に迷信も擦(す)り寄らない!!

俳優も精神のはたらきはもっている。しかしそれに伴う良心は、ほとんどもっていない。かれがつねに信ずるものは、人をして最も強く信じさせることに役立つもの──かれ自身を信じさせることに役立つものである。
 明日、その俳優は新しい信仰をもつだろう。そして明後日は、いっそう新しい信仰を。かれがすばやい感覚をもっていることは、民衆と同じだ。そして変わりやすい天気のような気分をもっていることも。
-ツァラトゥストラ

 この半生(はんせい)に何度か伝説を見た。不思議を知ってしまった。何度か死にかけた──行き違いのもう二種類。

 「礼儀正しく、日頃の行いを良くして居れば、きちんと天に召されるその訳は、天を脅(おびや)かすこともない凡夫(ぼんぷ)、実は地獄かもしれないよ」──そうして怒りに触れたのだ。再び改めて輪(まわ)り廻(めぐ)る六道(りくどう)また六界(ろっかい)。

 龍は厳(いか)めしい形相(ぎょうそう)に大蛇(おろち)の身体を伴い、その肉体は牛のものとも云われ、どちらにせよ真相はもう良いんだ、巳(み)年で牡牛座の己が境遇ならば、その真相は何も厳めしくは無いのだ。あゝ長広舌(ちょうこうぜつ)、長広舌。彼等ホントはお喋りだったのが、しんと黙りこくって、その言葉を奪ったのアタシ、役者の役割の役得なのアタクシ。あゝ長広舌、長広舌。輪り廻る六界。

 貴方は憧れ、憎しみ、不快、不可解、同じ様(さま)、どちら様?則(すなわ)ち天上、人間、修羅、畜生、餓鬼、地獄?神様と自然の脅威を免(まぬが)れたかった?祖先に前世の事まで知りたがった?──マイ・フィニッシュド・バラッズ、おしまいなんだ。


 具体的に示せと?類型的に提示せよと?

 類型①:一番熱いもの。発表する側(にわかに注意されるもの)。単に、うざがられる人間。単純な性格。③と直接的な関係を持ちたがらない。この役者Bは演技に関して素人である。

 類型②:一番冷たいもの。指摘する側(にわかに提案されるもの)。単に、うざがる人間。明快な人格。④と直接的な関係を持ちたがらない。この役者Aは人生に関して素人である。

 類型③:①と②が生んだもの。創造する側(あたかも批判的なもの)。敢えて、うざがる人間。複雑な性格。①と間接的な関係を望む。この役者Bは演劇的な人生を歩む。

 類型④:②と③が産んだもの。批評する側(あたかも創作的なもの)。敢えて、うざがられる人間。怪奇な人格。②と間接的な関係を望む。この役者Aは人情的な演技をする。

 類型①は類型①のままが究極の、人類の最適解であった。しかし類型②がこの世に存在する以上、類型③と成らざるを得ない。私はいま類型③と為り掛けて、これを執筆している。そして私の夢は、類型②がこそこそと隠したい、類型④と成る瞬間を見届ける事で、得意気な顔を取り戻した類型④と対峙しながら、無責任にも類型①と為る事である。

 つまり人生Aにおける、役者Bの完成であり、役者Aにとってもまた、人生Bの完成となる。全く面倒くさい物語である。

 面倒な物語を一々洗いざらい、音楽だとか文学にして恥ずかしい思いをする類型①。何よりも羞恥の回避を優先し、何も無いのに何か有る振りをする類型②。何でも有りとなった禁忌は、羞恥でも何でも無い類型③。恥と外聞を避けるより積極的に、最優先に着手して恥も外聞も無い類型④。

 人生Aにおいて、役者Aは務(つと)まらないから。また役者Bにとっても、人生Bは詰まらないから。全く芝居くさい話である。

 私に『「いき」の構造』を書かせるでない、読者であらせろ!!君に『陰翳礼讃』を読ませるでない、筆者であらせろ!!……どうして貴公から逃れられぬ、どうしても機構から逃げられぬ!!!!


 昭和と呼応(こおう)しない──令和に横たわる年齢──平成を象(かたど)った生年月日

 結局誰も来なかった──息詰まる海と夕焼。天上界から人間界へ。君の忠告に従い、その宣告された日に毒でも呷(あお)れば良かった。人間界から修羅界へ。云う通りにすれば、才能と共に縊(くび)られた。修羅界から畜生界へ。この期(ご)に及(およ)んで尚(なお)書き歌い続け、死ぬほど生きてみたかった。畜生界から餓鬼界へ。みな社会的な肩書きの為、或いは立派な前科を付ける為に。餓鬼界から地獄界へ。頑張れ仕事!!頑張れ犯罪!!あい左様(さよう)なら、私は私で一杯の馬鹿、お誂(あつら)え向きの最期を迎える。乱筆乱文にて、かしこ。

 誰かとは違う──腹も割らない──平静を装(よそお)った幕切れ

「言語は文明なのです。……言葉はどんなに嫌な言葉であっても、ひととひととを結び合わせることができます。……これに反して沈黙はひとを孤立させます。」
-ロドヴィコ・セテムブリーニ

 言語や言葉でなし──沈黙でもない独言(ひとりごち)──地獄界から天上界へ

 悪意は案外、続かない。便箋(びんせん)、数枚持てば良い方だ。善意の方が、恙無(つつがな)い。煙草、吸うまいとすれば良い子だ。

 空洞め軽薄め役者の奴等め、自分の言葉を持てよ話せよ、誰か持て囃(はや)すなよ。借り物の言葉は既に、貸した者が亡き後で、一見自立した風を装ってみせるが、死に装束(しにしょうぞく)、自立できない奴等が寄り添いあって、寄り掛かった依存の束(たば)、煙草、吸うまいとすれば良い子だ。

 日本人より良い加減な日本人であれ、世界より正確な世界となれ、中途半端が究極のお前であれ。周りがそうする事の、中へゆけ、逆なんぞ手緩(てぬる)い、深層を行け、心臓を抜け、心魂(しんこん)を貫(つらぬ)け、良い匂いか、そう臭(にお)うか、赤子、吸うまいとすれば良い子だ。


 地獄界から天上界へ


2021年11月22日月曜日

ジョー・ヤブーキかNori MBBMか

「すべての無常なものは比喩(ひゆ)にほかならず」
-ゲーテ「ファウスト」より

すべての不滅なものは──一つの比喩にほかならぬ。あの詩人たち(訳注 もっぱらゲーテをさす)は嘘を言いすぎるのだ。
-ニーチェ「ツァラトゥストラ」より

 不滅のギョエテか、無常のニーチェか、どちらにするか決めた?

 身体を燃やすジョー・ヤブーキか、精神を燃やすNori MBBMか、どちらにするか決めた?

 黒く塗れ!終末のタンゴを踊れ!!黒塗りをつんざいて、始まりのワルツを踊れ!!!


TMGEを!!MBBMが!!!!

 カバーMV、三十七ラウンド目。ミッシェルは完璧なバンドなので、一番かけ離れた弾き語り独演形式でないと勝ち目はないと考えて、弾き語りなら何が良いかなー“赤毛のケリー”はもう公式にMVあるしなー“ドロップ”は高円寺の高架下に居る何処ぞの兄ちゃんはおろか菅田将暉だって演ってたしなー誰もが演るよな安易なカバーは芸が無いしなー“世界の終わり”に至ってはもう公式にMVもある上にミッチーも民生も吉井さんも演ってたしなー誰もが演るよな安易な(以下略)にまつわるエトセトラ(PUFFYはデビュー25周年)がエンドレスでとつおいつ思案を巡らし、誰もまだ意外と弾き語ってなさそうな、それでいて昔から手前の心に巣食って離れない、アンフィニッシュドな煩悩を燃やして舞う灰のバラッズ、この丑年に牛泥棒されたカウボーイが踊るワルツ、その“アッシュ”と相成った訳でAre you burning?(灰だけに)


伯国における下町のナポレオン“カシャーサ51”を背に、まず一献(村田英雄)

 長年の持論になりますが、ミッシェルは“アルバム二枚毎で大まかな時代区分が出来る”バンドであります-即ち、初期(「カルトグラス」&「ハイタイム」)、中期(「チキンゾンビーズ」&「ギヤブルーズ」)、後期(「カサノバスネイク」&「ロデオタンデム」)、最後期(「サブリナヘヴン」&「ノーヘヴン」)で、バンド全体の雰囲気ないしメンバーの容姿や音の質感に詩の世界観等をそれぞれ分類できるという事です。

 例えば、チバユウスケとクハラカズユキの髪型の変遷からウエノコウジの輩度合の亢進にアベフトシが鬼化してゆく過程まで、この“アルバム二枚毎の区分け”で逐一解説することだって可能ですし、BJC指数(←今オレが作った数値基準)がTMGE最後期に掛けて高まって行くのを詳細に辿ることだって出来るのです(逆にブランキーはミッシェル化していった印象で、互いに影響を及ぼし合っていたんだな、と推察されますイベントの打ち上げで一緒に焚き火してる動画を見て)


 グダグダと結局なにが言いてえのかって、モッズスーツでキメた男四匹によるローファイな音宇宙が最高沸点に達してドロドロのぐっちゃぐちゃに煮詰められてtmgeからTMGEへと進化した中期こそ至高、もう完全にこのバンドどうかしてるなって瞬間が学生時代にカルチャーショック否むせかえるよカルチャー、枯れちゃう、そしてミッシェルで初めて買ったこの「ギヤブルーズ」というアルバムからの一曲“アッシュ”をカバーしたって訳さ(こう動機を話す迄のイントロが何時も長いからサブスクに不向きなMBBMはTMGEに愛と、いう、憎イエー

 ……5thアルバム「カサノバスネイク」以降の後期は“つきぬけた”(ゆらゆら帝国じゃないよ)って感じで、まるで此処じゃない何処かで“マキシマム・ロッキン・ブルーズ”が爆発してて、最後期の7th「サブリナヘヴン」と8th「ノーヘヴン」で“完全に出来上がってしまった”(ゆら帝解散に際しての坂本さんのメッセージはマジ心にヒットする)という印象で、この頃はもう笑えないというか笑っちゃいけないシリアスな雰囲気がブンブン漂ってるんだ(←3104丁目)、、自分はやっぱり初期の可愛げとかユーモアがまだまだ残っている3rd「チキンゾンビーズ」が一番お気にのアルバムだなんて唐突な自分語り a.k.a. ハイ!チャイナ!


バーのオーナーにパシャリ撮って貰いました

 今回のカバー楽曲に相応しい場所としてラテンな雰囲気のあるバーはないか?と探してて、明大前にある“カフェバー・LIVRE”さんを借りて撮影させて頂いたのですが、オーナーの方がかつて高円寺に住んでいたライヴハウスの先輩で撮影後も話が盛り上がって長居してしまいました。しかもお店にはチバさんも数回来店されたとのこと、予期せぬ偶然が度重なって私震えましたワよドグマッてねドグマッ


ウエニトベウエニ、ウエニウエニトベ


~~~~


燃えたよ

真っ白に、燃え尽きた


真っ白な灰に……


「し、試合終了です!終了ゴングと同時に精も根も尽き果てたかチャンピオン、ガックリと倒れ掛けましたが、これはダウンになりません!勝敗は遂に判定に持ち込まれました。それにしても三十七ラウンドの長丁場、終始凄まじい試合展開を見せたこの世界タイトルマッチ!日本のNori MBBM、よくやりました!最後の最後まで頑張り抜きました、バーニン屋ノリ!!さあ、判定はどう出ますか!?観衆は総立ち!レフェリー、採点カードを集めております。」


おっちゃん、おっちゃんよ……

──おお!なんだノリ

ギターを、外してくれや

──おい来た


「集めた採点カードを係に渡しましたレフェリー。さあ、まもなく判定が出ます。」


◯◯は、いるかい?

──ここにいるわノリくん!

このギター貰ってくれ

あんたに貰ってほしいんだ……


「レフェリーが判定を読み上げます。勝敗はどちらか、緊張する一瞬!!」


“×××!!”


嗚呼……


「残念、残念です!!ぜ、善戦むなしく敗れました、日本のNori MBBM!!」


(ああっ……×××の顔を見ろ……)

(髪の毛も……あんなに……)


──惜しかったなノリ……
しかし、ようやったぜ
わしゃもう、もう何も言うこたぁねえ


よう、やった……

ノリ……!?


~~~~


 次回11月25日
 マイ・フィニッシュド・バラッズ最終話!!

 「役者二種類どちら様」

 男子、三日会わざれば刮目して見よ!!!


 “完全な、始まりなき詩”